全エクソーム解析でのミトコンドリア病遺伝子診断率は30~40%程度
近畿大学は9月3日、遺伝子診断で未診断となっていたミトコンドリア病症例のマルチオミクス解析を行い、NDUFV2遺伝子の変異を同定し原因を特定したと発表した。この研究は、同大理工学部生命科学科の木下善仁講師(順天堂大学難病の診断と治療研究センター非常勤講師)、順天堂大学難病の診断と治療研究センターの岡﨑康司教授、千葉県こども病院代謝科の村山圭部長、埼玉医科大学小児科大竹明教授らの共同研究として行われたもの。研究成果は、「Human Mutation」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
ミトコンドリア病とは、ミトコンドリアの機能異常が原因となる病気の総称で、国の指定難病および小児慢性特定疾病に定められている。この疾患は、発症年齢や症状、遺伝形式が多岐に渡っており、臨床的また遺伝的に診断が非常に難しい。岡﨑教授らの研究グループは十数年にわたり、千葉県こども病院代謝科、埼玉医科大学小児科と共同で、ミトコンドリア病の生化学診断や遺伝子診断に取り組んできた。この疾患の診断は非常に難しく、その診断率はおよそ30~40%となっている。遺伝子診断はこれまで全エクソーム解析などを中心として行われてきたが、これは遺伝子のエクソン領域を対象にした解析のため、技術的な限界があることが課題だった。これらの問題を解決するため、研究グループはRNAシーケンスや全ゲノム解析等を組み合わせたマルチオミクス解析を駆使し、原因解明に取り組んだ。
NDUFV2にヘテロ変異、RNAシーケンスで発現の偏りとエクソンスキップが判明
今回、実施されたのは、ミトコンドリア病の未解決症例を対象としたマルチオミクス解析。対象となる症例はミトコンドリア呼吸鎖Iの異常を呈しており、生化学診断によりミトコンドリア病とされていた。まず、従来のゲノム解析方法である全エクソーム解析を用いて原因探索を行ったところ、NDUFV2遺伝子にヘテロ接合のc.580G>A(p.Glu194Lys)の遺伝子異常を発見。この遺伝子異常は、ヘテロ接合の状態では病的原因と考えられないため、さらなる遺伝子異常の存在が示唆された。そこで、RNAシーケンス(RNA-seq)と全ゲノム解析を実施し、遺伝子異常の探索を実施。その結果、RNAシーケンスのデータから遺伝子発現の偏りがあること、およびエクソンスキップが起こっていることが判明した。
全ゲノム解析で同領域含む欠失判明、詳細解析でAlu因子による欠失と判明
さらに、全ゲノム解析の結果から、NDUFV2遺伝子のイントロン4-エクソン5-イントロン5にまたがる遺伝子欠失を発見。RNAシーケンスでエクソンスキップが見られたエクソン5を巻き込んだ欠失であったことから、これが疾患の原因と考えられた。
次に、PCRとサンガーシーケンスにより欠失の詳細を解析。その結果、この欠失はAlu因子を介した欠失であることがわかった。Alu因子はゲノム上を移動するトランスポゾンであり、今回の場合はAlu因子がゲノム上を移動した結果、周辺の領域を巻き込んだ欠失を起こしていたことが示唆された。このような現象はまれであり、典型的なミトコンドリア病としては初めて示された症例。さらに、タンパク質発現量の解析では、NDUFV2タンパク質の顕著な発現低下が認められた。NDUFV2はミトコンドリア呼吸鎖複合体Iの構成成分で、鉄硫黄クラスターを介し電子伝達系に重要な働きをもつことが知られており、この機能異常が患者における神経筋症状の発症につながったと考えられるという。
こうして、ミトコンドリア病の未解決症例においてマルチオミクス解析により疾患原因となるNDUFV2遺伝子異常が特定された。
マルチオミクス解析はミトコンドリア病に限らず遺伝子診断に重要
今回の結果から、遺伝子診断のためにマルチオミクスを導入することの重要性が示された。他の疾患においても、このようなマルチオミクス解析の応用が可能であり、将来的に遺伝子診断にこの技術が普及することが期待される。今回の研究では、その成功例としてマルチオミクス解析の重要性が示された。また、非常にまれなAlu因子を介した遺伝子欠失が見出されたことから、今後も関連疾患の中にこのような遺伝子異常が発見されることも予想される。
同研究グループの先行研究により、NDUFV2遺伝子異常を持つ症例の線維芽細胞に対して、アミノレブリン酸とクエン酸第一鉄ナトリウムの投与が有効であることが示されており、治療薬としての可能性も示唆されている。今後、遺伝子異常と治療薬の適応についての研究が進むことが期待される。
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