高齢者218人を対象に、腸内細菌叢の経時変化と乳酸菌摂取が腸内細菌叢の変化に与える影響を検証
株式会社ヤクルト本社は9月2日、群馬県吾妻郡中之条町(以下、中之条町)に在住の高齢者を対象に、腸内細菌叢の経時変化と、乳酸菌ラクチカゼイバチルス パラカゼイ シロタ株(以下、L. パラカゼイ・シロタ株)を含む乳製品の習慣的摂取が、腸内細菌叢の変化に与える影響を疫学的に調査した結果を発表した。この研究は、同社と東京都健康長寿医療センター研究所(社会参加と地域保健研究チーム)の青栁幸利専門副部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
腸内細菌叢の不安定性や撹乱が疾病の発症および進行に関係していることが明らかになってきている。健康な成人の腸内細菌叢は一般的には安定していると考えられているが、各個人の腸内細菌叢の経時的な変化を詳細に検討した研究は十分ではない。青栁専門副部長らは、中之条町において「高齢者の日常的な身体活動と心身の健康に関する疫学調査(中之条研究)」を実施しており、中之条町に在住の高齢者を対象に年1回の腸内細菌叢解析を行っている。研究グループは今回、各個人の腸内細菌叢の経時変化および乳酸菌摂取が腸内細菌叢の変化に与える影響を検証した。
高齢者の多くは腸内細菌叢が安定、約10%で1年間に大きな変化
研究ではまず、中之条町に在住の66~91歳の自立した高齢者218人(男性99人、女性119人)の糞便を2年連続で採取し、次世代シーケンサーにより腸内細菌叢の構成を分類学上の「科」レベルで測定。得られたデータをもとに、「両年の腸内細菌叢の違い(以下、1年間の経時変化)」をJensen-Shannon distance(以下、JSD)で数値化した。その後、「個人間の腸内細菌叢の違い(以下、個人間の差)」もJSDで数値化し、両者の比較を行った。
その結果、ほとんどの高齢者における腸内細菌叢の1年間の経時変化は、個人間の差よりも小さいことが確認された。一方、19人(8.7%)の高齢者では、1年間の経時変化が個人間の差と同等であり、腸内の最優勢細菌群が入れ替わるなどの大きな腸内細菌叢変化が生じていたという。
L.パラカゼイ・シロタ株を含む乳製品を週3日以上摂取している高齢者は1年間の腸内細菌叢変化が小さい
次に、2年連続で腸内細菌叢解析に参加した218人について、過去1か月間、過去5年間および過去10年間における1週間あたりのL.パラカゼイ・シロタ株を含む乳製品の摂取頻度を自己申告型のアンケートで調査。得られたデータをもとに、L.パラカゼイ・シロタ株を含む乳製品の摂取頻度が週3日未満の群と週3日以上の群に分け、1年間の腸内細菌叢変化を比較した。
その結果、週3日以上摂取群の「腸内細菌叢変化が大きい高齢者(JSD ≥ 0.4)」の割合は、週3日未満摂取群に比較して低く、特に過去10年間週3日以上群で有意に低いことが示された。また、過去10年間、週3日以上摂取群の腸内細菌叢変化は、週3日未満摂取群と比較して有意に低い値を示したという。
今後も中之条研究でL.パラカゼイ・シロタ株を含む乳製品の新たな可能性を追究
今回の研究成果により、ほとんどの高齢者の腸内細菌叢は安定しているが、約10%の高齢者では1年の間に大きな腸内細菌叢変化が生じていることと、L.パラカゼイ・シロタ株を含む乳製品を習慣的に週3日以上摂取している高齢者では、摂取頻度が週3日未満の高齢者に比べて、1年間の腸内細菌叢変化が小さいことが示された。
同研究から、L.パラカゼイ・シロタ株を含む乳製品の習慣的な摂取が、高齢者の腸内細菌叢の安定化に貢献する可能性が示された。L.パラカゼイ・シロタ株を含む乳製品が腸内細菌叢を安定化するメカニズムと腸内細菌叢の安定性が高齢者の健康に及ぼす影響を明らかにすることは、健康長寿社会の実現への糸口になると考えられる。「今後も中之条町における調査を通じて、L.パラカゼイ・シロタ株を含む乳製品の摂取による新たな可能性を追究していく」と、研究グループは述べている。
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