ダウン症の約6割が若年性アルツハイマー病を発症
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は8月31日、ダウン症患者由来のiPS細胞から作製した神経細胞を用い、ダウン症の神経細胞ではアミロイドβが過剰産生されることと、これが抗酸化剤であるN-アセチルシステインの添加によって抑制されることを示したと発表した。この研究は、CiRA臨床応用研究部門の利川寛実大学院生(現:済生会吹田病院)、齋藤潤准教授らの研究グループが、大阪医科歯科大学、済生会吹田病院、京都大学医学部人間健康学科、鳥取大学、米ワシントン大学との共同研究として行ったもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
ダウン症は21番染色体を3本持つ(トリソミー21)先天性の染色体異常症。特徴的な顔貌をもち、先天性心疾患や骨格の異常、免疫の異常など様々な症状を認めるが、最も特徴的な症状は発達および知的障害だ。また、約60%が若年性アルツハイマー病を発症することが知られている。
ダウン症患者の神経細胞に抗酸化剤投与でアミロイドβ抑止可能?
ダウン症における若年性アルツハイマー病の発症原因の一つとして、アルツハイマー病の原因物質の一つと考えられているアミロイドβという物質を産生する、APP遺伝子が過剰にあることが考えられている。APP遺伝子は21番染色体上にあり、通常2本存在するが、ダウン症候群では3本存在する。APPタンパク質は脳内で切断され、アミロイドβとなる。ダウン症患者の脳内には多くのアミロイドβがあり、病理学的にアルツハイマー型認知症の患者と同様の形態を示す。
また、高い酸化ストレスが神経障害を引き起こしていることも原因の一つであると考えられている。アミロイドβと酸化ストレスは複雑に関係しているため、抗酸化剤は治療のターゲットになりうると考えられている。そこで今回、研究グループは、ダウン症患者の神経細胞に抗酸化剤であるN-アセチルシステインを投与し、アミロイドβ分泌に及ぼす効果を検証した。
ダウン症患者のiPS細胞由来神経細胞、アミロイドβを多く分泌
まず、NGN2遺伝子を過発現する手法を用い、ダウン症患者のiPS細胞から神経細胞を作製した(D-iNs)。また、事前に上記と同じダウン症iPS細胞から21番染色体を1本削除した細胞を作成しており、その細胞からも同様に神経細胞を作成した(E-iNs)。
次に、この二つの神経細胞のアミロイドβの分泌量を測定した。分泌されるアミロイドβにはさまざまな種類があるが、多くがアミロイドβ40(Aβ40)、アミロイドβ42(Aβ42)であり、今回はその2種類のアミロイドβを測定した。結果、D-Nsからは、E-iNsよりも多くのAβ40、Aβ42が分泌されていた。
N-アセチルシステイン投与でアミロイドβ減少、過酸化水素で亢進
これらの神経細胞に、抗酸化剤であるN-アセチルシステインを投与したところ、分泌されるアミロイドβは有意に減少した。また反対に、酸化剤である過酸化水素(H2O2)を投与すると、アミロイドβの分泌が亢進した。
今回の研究では、ダウン症患者の多能性幹細胞と、同質遺伝子を持つ健常コントロールを用い、N-アセチルシステインがアミロイドβ分泌を有意に抑制することを確認した。N-アセチルシステインはアルツハイマー病のモデルマウスの認知機能を改善する効果や、酸化ストレスによる神経細胞死を改善する効果などが報告されており、さまざまな神経心理疾患、神経変性疾患での研究が進んでいる。「今回の研究成果は、ダウン症の治療の選択や、今後の治療法の研究に役立つと期待される」と、研究グループは述べている。
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