10種の卵巣がんスフェロイド細胞を樹立し、抗がん剤耐性機序に関与する分子を探索
新潟大学は8月30日、卵巣がん患者の腹水中のがん細胞から作成した3次元培養細胞(スフェロイド細胞)を用いた新たな解析手法を駆使し、再発卵巣がんで問題となるプラチナ製剤に対する耐性化の機序に関与する分子を同定したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科産科婦人科学分野の榎本隆之教授、医歯学総合病院総合周産期母子医療センターの山脇芳助教らの研究グループと、国立がん研究センター研究所がん分化制御解析分野の岡本康司分野長らとの共同研究によるもの。研究結果は「Cancer Letters」に掲載されている。
画像はリリースより
卵巣がんを中心とした女性特有のがんは増加傾向にあり、日本での卵巣がんの死亡数は増加の一途をたどっている。卵巣がんはプラチナ製剤を中心とする抗がん剤治療に対して高い効果を示すものの、多くの症例でその後に再発を認め、特にプラチナ製剤に対して耐性を示した場合には「プラチナ抵抗性再発」として、有効な治療に乏しいのが現状である。プラチナ製剤に対する耐性機序の解明と、新たな治療戦略の構築は喫緊の課題だ。
研究グループはこれまでに、卵巣がん患者から提供された腹水中のがん細胞を用いて、3次元培養細胞の一種である卵巣がんスフェロイド細胞を作成し、解析を進めてきた。卵巣がんスフェロイド細胞は、培養液中で球状の3次元構造を保って増殖をし、生体内に近い状態を保持していると考えられている。研究グループは、今回新たに10種類の卵巣がんスフェロイド細胞の樹立に成功し、それらの網羅的な遺伝子発現解析と抗がん剤感受性試験を併用することで、卵巣がんの抗がん剤耐性機序に関与する分子の同定を行った。
グルコース-6-リン酸脱水素酵素とその一群の酸化還元酵素の関与を明らかに
樹立した卵巣がんスフェロイド細胞を用い、多種類の抗がん剤に対する感受性試験を行ったところ、プラチナ製剤への感受性が細胞によって異なることがわかった。そこで、プラチナ製剤に対して耐性が強い細胞群と耐性が弱い細胞群に分類し、それぞれの群の遺伝子の発現を比較検討したところ、プラチナ製剤に耐性がある細胞群では、ペントースリン酸経路の律速酵素である「グルコース-6-リン酸脱水素酵素」(G6PD)と、それに関与する一群の酸化還元酵素の発現が高く、それらの分子がプラチナ製剤への耐性機序に関与していることが明らかになった。
G6PD阻害剤とシスプラチン併用によりプラチナ製剤耐性を克服、マウスモデルで
研究グループは、G6PDに着目し、スフェロイド細胞の増殖抑制実験や腹膜播種モデルを用いたマウス実験を行い、G6PDの阻害剤とプラチナ製剤の一種である抗がん剤シスプラチンを併用投与することで、スフェロイド細胞のもつプラチナ製剤への耐性が解除されることを見出した。
さらに、過去に新潟大学医歯学総合病院で手術を受けた卵巣がん患者のがん組織中のG6PDの発現を確認したところ、G6PDの発現の強さと患者の予後(無増悪生存期間、全生存期間)に逆相関が確認された。
今回の研究成果から、プラチナ製剤に対して耐性が生じた卵巣がん患者には、プラチナ製剤とG6PDの阻害剤を併用することにより、プラチナ製剤の効果を回復させることができる可能性がある。「患者由来のがんスフェロイド細胞の作成を進め、同研究で用いた解析手法を用いることで、他の薬剤での耐性機序に関与する分子も同定することができると考えられる」と、研究グループは述べている。
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