胃がん予防戦略の評価に重要な長期累積リスクを調査
愛知医科大学は9月1日、ピロリ菌に感染している人では、生まれてから85歳までに胃がんに罹る確率が男性で17.0%(約6人に1人)、女性で7.7%(約13人に1人)に上る可能性が高いことが推定されたと発表した。この研究は、同大医学部公衆衛生学の川合紗世講師、王超辰講師、篠壁多恵講師、林櫻松教授(特任)、菊地正悟教授、および、兵庫医科大学小児科学の奥田真珠美教授によるもの。研究成果は、「International Journal of Cancer」に掲載されている。
ピロリ菌(H. pylori)感染は、胃がんの主な原因の一つと考えられている。胃がんは現在、罹患率および死亡率が高い一般的ながんだが、今後、ピロリ菌感染の有病率低下に伴い、罹患率も徐々に低下していくことが予想される。胃がん予防戦略の効果を評価する際には、ピロリ菌感染者と非感染者の間の長期累積リスクの差が重要となるが、これはまだ正確に評価されていない。
ピロリ菌感染で男性1%から17%に、女性0.5%から7.7%にリスク上昇
今回、同大公衆衛生学講座では、以前に実施したメタ解析により得られた生年ごとのピロリ菌感染率データと国立がん研究センターのがん情報サービスでWeb公開されている日本の年齢階級別胃がん罹患年次推移データ(全国がん登録、地域がん登録事業の成果)を利用し、さらにピロリ菌感染の有無による胃がん発生リスクを仮説設定した上で複合的に解析して胃がん累積罹患リスクを算出した。解析にはモンテカルロ法(シミュレーションを繰り返す方法)を用いた。5,000回試行の結果、ピロリ菌感染者では0歳から85歳までに胃がんに罹る確率が男性で17.0%、女性で7.7%であることが推計された。一方、ピロリ菌に感染していない場合は男性で1.0%、女性で0.5%だった。
今回の研究成果は、個人がピロリ菌検査やピロリ菌除菌治療を受けるかどうかを決める場合に重要な情報となり、また、ピロリ菌が胃がんの最も大きな原因であることを利用した胃がん対策事業を行うにあたり、ピロリ菌感染コントロールと胃がん検診および治療とのコストバランスを分析する上での基本情報となると、研究グループは述べている。