迅速な情報共有を目的に、6~7月分の暫定結果を報告
国立感染症研究所(感染研)は8月31日、新型コロナワクチンの有効性を検討した症例対照研究の暫定報告(第一報)を発表した。この報告は、感染研感染症疫学センターの新城雄士氏、有馬雄三氏、宮原麗子氏、鈴木基氏、クリニックフォア田町の村丘寛和氏、KARADA内科クリニックの佐藤昭裕氏、公立昭和病院の大場邦弘氏、聖路加国際病院の上原由紀氏、有岡宏子氏、国際医療福祉大学成田病院の加藤康幸氏、埼玉医科大学総合医療センターの岡秀昭氏、西田裕介氏、新宿ホームクリニックの名倉義人氏、日本赤十字社医療センターの上田晃弘氏、複十字病院の野内英樹氏、横浜市立大学付属病院の加藤英明氏らによるもの。
画像は感染研サイトより
新型コロナウイルス感染症のワクチン開発は未曾有のスピードで進み、世界では複数のワクチンが多くの国で承認され、国内においても2021年2月14日にファイザー社製の新型コロナワクチンが製造販売承認となった。ファイザー社製およびモデルナ社製のmRNAワクチンは大規模なランダム化比較試験で有効性(vaccine efficacy)が90%以上とされ、アストラゼネカ社製のウイルスベクターワクチン1種類も有効性が70%程度とされた。しかし、免疫の減衰や変異株の出現による有効性の低下が指摘されており、国内外において、実社会におけるワクチン有効性(vaccine effectiveness)を経時的に評価していく必要性がある。そこで、感染研では、複数の医療機関の協力のもとで、発熱外来等で新型コロナウイルスの検査を受ける者を対象として、インフルエンザワクチン等の有効性評価で一般的に用いられている症例対照研究(test-negative design)を開始した。今回の報告は、その6~7月分の暫定結果で、迅速な情報共有を目的としたもの。内容や見解は知見の更新によって変わる可能性がある。
都内5医療機関の発熱外来等受診者対象、アンケートで接種時期をカテゴリー分け
同調査は、感染研および協力医療機関において、ヒトを対象とする医学研究倫理審査で承認され、実施された。2021年6月9日から7月31日までに東京都内の5か所の医療機関の発熱外来等を受診した成人を対象に、検査前に基本属性、新型コロナワクチン接種歴などを含むアンケートを実施。除外基準である未成年者、意識障害のある者、日本語でのアンケートに回答できない者、直ちに治療が必要な者、同アンケート調査に参加したことのある者には調査参加の打診を行わなかった。のちに各医療機関で診断目的に実施している核酸検査(PCR)の結果が判明した際に検査陽性者を症例群(ケース)、検査陰性者を対照群(コントロール)と分類。発症から14日以内で、37.5℃以上の発熱、全身倦怠感、寒気、関節痛、頭痛、鼻汁、咳嗽、咽頭痛、呼吸困難感、嘔気・下痢・腹痛、嗅覚味覚障害のいずれか1症状のある者に限定して解析を行った。
ワクチン接種歴については、未接種、1回接種のみ、2回接種の3つのカテゴリーに分類。また接種後の期間を考慮するため、未接種、1回接種後13日目まで、1回接種後14日から2回接種後13日目まで(partially vaccinated)、2回接種後14日以降(fully vaccinated)の4つのカテゴリーに分類した。ロジスティック回帰モデルを用いてオッズ比と95%信頼区間(CI)を算出し、ワクチン有効率は(1-オッズ比)×100%で推定した。多変量解析における調整変数としては、先行研究を参照し、年齢、性別、基礎疾患の有無、医療機関、カレンダー週、濃厚接触歴の有無、過去1か月の新型コロナウイルス検査の有無をモデルに組み込んだ。ワクチン有効率においては、多変量解析から得られた調整オッズ比を使用した。
なお、調査期間中、東京都では6月20日までは緊急事態宣言、6月21日から7月11日まではまん延防止等重点措置、7月12日からは緊急事態宣言が発出されていた。また、民間検査会社における変異株スクリーニングの状況としては、6月初旬の調査開始時にはB.1.1.7系統(アルファ株)が大部分だったが、7月下旬にはB.1.617.2系統(デルタ株)が大部分を占めるという置き換わり期だった。
解析対象は1,130名、検査陽性416名、ワクチン未接種914名
都内の5医療機関において、発熱外来等を受診した成人1,525名が調査への協力に同意した。うち、発症日不明および発症から15日以降に受診した69名、症状のなかった326名を除外して解析が行われた。
解析に含まれた1,130名のうち新型コロナウイルス検査の陽性者は416名(36.8%)だった。その基本特性は、年齢中央値(範囲)33(20-83)歳、男性546名(48.3%)、女性584名(51.7%)であり、何らかの基礎疾患を267名(23.6%)で有していた。また、ワクチン接種歴について、未接種者は914名(83.4%)、1回接種した者は141名(12.9%)、2回接種した者は41名(3.7%)だった。なお、ワクチン接種歴のある182名中、回答のなかった9例を除いて63名(36.4%)がワクチン接種記録書等の原本や写真等を携帯しており、110名(63.6%)はカレンダーや手帳を見ながらアンケートに回答した。
暫定ワクチン有効率は、部分免疫で76%、フル免疫で95%
ワクチン接種歴を接種回数別で3つのカテゴリーに分け、検査陽性者(症例群)と検査陰性者(対照群)とで比較した。未接種者を参照項とする調整オッズ比は、1回接種者では0.52(0.34-0.79)、2回接種者では0.09(0.03-0.30)だった。次に接種後の期間ごとに検討したところ、1回接種13日目までの調整オッズ比は0.83(0.51-1.37)、1回接種14日以降2回接種13日まで(partially vaccinated)およびワクチン2回接種14日以降(fully vaccinated)では、それぞれ0.24(0.12-0.47)、0.05(0.00-0.28)だった。ワクチン接種歴不明例・接種日不明例は主解析では対象から除外したが、未接種として解析に含めた場合でも調整オッズ比は同様だった。
調整オッズ比を元にワクチン有効率を算出したところ、1回接種14日以降2回接種13日まで(partially vaccinated)では76%(95%CI 53-88%)、2回接種では91%(95%CI 70-97%)、ワクチン2回接種14日以降(fully vaccinated)では95%(95%CI 72-100%)だった。
2回接種で高い有効率を認めるも、接種者割合が少ないため今後変動の可能性も
今回の報告では、ワクチンを接種して14日以上経過した者においては未接種者と比較して、有意に感染のオッズが低く、国内においても現時点で承認されているワクチンの新型コロナウイルス感染症の発症に対する有効性が示された。また、接種回数・(短期的には)接種からの期間が長くなるにつれて有効率が高くなる傾向が見られた。ワクチンを2回接種している者においては高いワクチン有効率を認めたが、人口に占める新型コロナワクチンを2回以上接種している者の割合が小さく、2回接種してから14日後以降に診断された者(いわゆるブレイクスルー感染例)を1名で認めるのみであるため、今後の解析で変動する可能性がある。ただし、諸外国の実社会におけるワクチン有効性評価と概ね一致するものであり、例えば、英国からの報告では、接種間隔が日本とは異なるものの、ファイザー社製の新型コロナワクチン(BNT162b2)接種者におけるB.1.1.7系統(アルファ株)に対する有効率は93.7%(95%CI 91.6-95.3%)、B.1.617.2系統(デルタ株)に対する有効率は88.0%(95%CI 85.3-90.1%)だった。
留意すべき点として、ワクチンの有効性は、流行状況、各変異株の割合、感染対策の緩和、ワクチン接種からの期間(免疫減衰の可能性)等の要素が影響している可能性があり、総合的に、経時的に判断すべきであることが挙げられる。一方で、今回の報告では1回接種13日目までは有効性が認められず、これは先行研究と一致する結果だった。これはバイアスの影響が少ないことを示唆する指標の一つとなっている。
なお、諸外国や今回の報告の通り、新型コロナワクチンの有効性は100%ではない(ブレイクスルー感染が起こりうる)ため、現状の流行状況ではワクチン接種者においても感染対策を継続することが重要。また、今回の調査はあくまでも迅速な情報提供を目的としている暫定的な解析であるため、今後もより詳細な解析を適宜行い、変異株や感染対策の緩和の影響、免疫減衰の可能性等をみていくために、経時的に評価していくことが重要だ。
長期的な有効性評価のために今後も調査の継続が重要
今回の調査および報告においては少なくとも以下の制限がある。まず、今回の報告はあくまでも6~7月分の暫定的な解析結果であり、サンプルサイズが限定的であり、今後の症例数の増加、変異株の影響、流行・対策状況の変化によって結果が変わる可能性がある。特に、点推定値については、今回ブレイクスルー感染例は1名しか認めず、信頼区間も広いため、解釈に注意が必要だ。2つ目に、交絡因子、思い出しバイアス、誤分類等の観察研究の通常のバイアスの影響を否定できない。特にワクチン接種歴については、ワクチン接種記録書等の原本や写真を携帯している者は少なく、カレンダーや手帳をみながら回答する者が多かった。3つ目の制限として、欠損値は今回の解析では除外している。ただ、ワクチン接種歴の欠損を未接種として解析に含めた場合でもオッズ比は同様であった。
4つ目の制限として、今回の調査はアンケートに回答可能な軽症例を対象としており、無症状病原体保有者・中等症例・重症例・死亡例における有効性を評価しておらず、ワクチンの種類ごとの有効性は評価していない(モデルナ社製ワクチンの製造販売承認は5月21日であり、ファイザー社製の2月14日より遅かったため陽性者の割合に違いが出ている可能性が高い)。5つ目の制限として、今回の研究では陽性例についてウイルスゲノム解析を実施していないため、各症例における変異株の割合については不明である。調査期間においては、B.1.1.7系統(アルファ株)からB.1.617.2系統(デルタ株)の置き換わり期であり、B.1.617.2系統(デルタ株)が大部分を占めるようになった際の有効性についても今後検討していく必要がある。最後に、今回示したのは短期的な有効性であり、長期的な有効性については今後調査を継続していくのが重要であるとして、同報告は締めくくられている。