希少卵巣がんGCTs、高率でFOXL2遺伝子体細胞変異
北海道大学は8月30日、卵巣顆粒膜細胞腫の臨床病理学的特徴および予後不良因子を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院保健科学研究院の蝦名康彦教授、東海大学医学部産婦人科学教室の三上幹男教授ら、日本産科婦人科学会、日本婦人科腫瘍学会の研究グループによるもの。研究成果は、「Gynecologic Oncology」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
顆粒膜細胞腫(Granulosa cell tumors:GCTs)は、卵巣悪性腫瘍の2%程度を占めるまれな腫瘍であり、希少卵巣がんといえる。GCTsは、女性ホルモン産生により閉経後に不正性器出血を呈する、初回治療から5~10年後など晩期再発をきたすといった特徴を有する。しかし、発生数がきわめて少なく、前向き臨床研究ができないため、一般的な卵巣がんのような標準治療が確立されていない。また、これまでは、性索間質性腫瘍に組み込まれて検討されることがほとんどだった。しかし、GCTsではFOXL2遺伝子の体細胞変異が高率に認められることからその独自性が明らかとなり、GCTs単独での研究の必要性が増している。
GCTsでは手術が治療の主体となる。しかし、患者にとって大きな侵襲となる診断的リンパ節郭清の要否などは明らかになっておらず、エビデンスが乏しい中で、一般の卵巣がん治療に準じて行われる状況だ。
2002~2015年の各種データ抽出、2011年までのデータで予後因子を検討
今回、研究グループは、日本産科婦人科学会が行っている婦人科腫瘍登録の膨大なデータを用いて、GCTsの臨床病理学的特徴と予後因子について検討した。日本産科婦人科学会では、臓器別の婦人科腫瘍登録を行っており、466病院が参加し、国内発生の新規婦人科腫瘍の約50%をカバーしている。2018年に同学会と日本婦人科腫瘍学会との共同研究として、研究グループが結成され登録データが提供された。
卵巣がんの登録が開始された2002~2015年までのデータから、年齢、FIGO進行期、初回手術術式(リンパ節郭清の有無など)、残存腫瘍、化学療法の有無等を抽出。予後報告を行っている2011年までのデータを用いて予後因子の検討を行った。
pT進行例ほど転移を高頻度に認める
14年間に登録された7万5,241例の卵巣悪性腫瘍のうち、GCTs1,426例(1.9%)を検討対象とした。全例に手術が施行され、FIGO進行期Ⅰ期(卵巣に限局して発育)症例が89.1%を占めていた。
また、222例にリンパ節郭清が施行されており、リンパ節転移陽性頻度はpT1期(手術所見ありで卵巣に限局)2.1%、pT2期(骨盤内への進展あり)13.3%、pT3期(骨盤外への腹膜播種あり)26.7%とpTが進行例ほど転移を高頻度に認めた。
予後不良因子は、残存腫瘍/リンパ節転移あり
次に、674例について、原病死をエンドポイントとして予後因子を検討。単変量解析では、FIGO進行期(Ⅱ期以上)、初回手術時の残存腫瘍(あり)、組織学的リンパ節転移(あり)が予後不良因子だった。コックス回帰分析を用いた多変量解析によると、残存腫瘍あり、リンパ節転移ありが独立した予後因子として選択された。
さらに、18~49歳のFIGOⅠ期症例(n=243)について、妊孕性温存手術(腫瘍切除のみもしくは片側附属器摘出のみ)と妊孕性非温存手術(両側附属器摘出など)を比較。その結果、両者に予後の差を認めなかった。
GSTs症例における手術治療の標準化が進むことに期待
今回の研究の成果により、GSTs症例における手術治療の標準化が進むことが期待される。初回手術時にpT1の症例については、診断的リンパ節郭清を省略できる可能性があることが示唆された。これは、患者に対する手術侵襲の軽減に大きく役立つとしている。
一方、pT2以上の症例には系統的郭清によるリンパ節転移診断の必要性を認めた。つまり、手術開始時に腹腔内の丹念な観察により、術式と郭清の要否を決定する。一方、腹腔内播種を有する進行例においては腫瘍減量を十分に行い、残存腫瘍をゼロとすることが予後改善につながることが示唆された。また、若年者に対しては妊孕能温存手術が可能だが、その際にも腹腔内の精査が必須となる。
今後、日本産科婦人科学会の登録データから一次調査としてGCTs症例を集積し、二次調査としての中央病理診断や化学療法等の追加情報の検討を目的とした臨床研究を実施していくことが望まれる、と研究グループは述べている。
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