発症や経過に遺伝的素因の関与が示唆されているがメカニズムは不明
東京医科歯科大学は8月26日、101例の慢性過敏性肺炎の遺伝子多型解析の結果から、自然免疫系の主要な制御因子であるTOLLIP遺伝子の一塩基多型が早期の呼吸機能の悪化に関連することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科統合呼吸器病学分野の宮﨑泰成教授、瀬戸口靖弘特任教授、片柳真司大学院生の研究グループによるもの。研究成果は、「Chest」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
過敏性肺炎は抗原を反復吸入することで発症する、免疫・アレルギー機序に由来する間質性肺炎として知られている。このうち、慢性過敏性肺炎は潜在性に肺が線維化する予後不良な疾患。これまで、過敏性肺炎では「家族集積性が報告されていること」「同一居住環境において感作が成立しているにも関わらず発症の有無に個体差が存在すること」「同じ抗原であっても臨床経過に多様性があること、などから発症や経過に遺伝的素因が関与する可能性が考えられてきた。しかしながら、病態の修飾に関わる原因遺伝子とその詳しいメカニズムは明らかになっていない。
患者101例のSNP解析でTOLLIPのrs5743899を同定
今回、研究グループは、これまでの基礎研究および臨床研究で培ってきた知見を活用し、自然免疫の中心的役割をなすToll-like receptor経路を負に制御するToll-interacting protein(TOLLIP)に注目して101例の慢性過敏性肺炎の患者の遺伝子多型を解析した。TOLLIPの多型と臨床的特徴との関連を調べた結果、rs5743899のGG遺伝子型が努力性肺活量(FVC)の急速な悪化と関連しており、これは後ろ向きコホート、前向きコホート、およびそれらを組み合わせたコホートで再現されることが見出された。
rs5743899のGG型でSmad/TGF-β、NF-κBシグナル伝達亢進が示唆
さらに、rs5743899は肺におけるTOLLIPの転写および翻訳産物の発現量に関連する機能的変異であり、rs5743899のGG遺伝子型では肺組織でSmad2とIκBのリン酸化が増加し、血清中のperiostin、IL-1α、IL-1β、IL-6、IL-8、TNF-α、およびIFN-γの値が高いことが示された。このことから、rs5743899は慢性過敏性肺炎の患者の肺におけるTOLLIPの遺伝子発現の変化を介してSmad/TGF-βおよびNF-κBシグナル伝達の亢進をもたらし、最終的に肺の線維化の進行と炎症の持続に関連すると考えられた。
シグナル異常による臓器線維化の病態解明と新規治療法開発への応用に期待
従前の慢性過敏性肺炎に対する治療はステロイド薬や免疫抑制薬が主体であり、それでも疾患が進行し、呼吸機能が悪化し続ける症例における有効な治療法はなかった。近年になって進行性線維化を伴う間質性肺疾患に対して抗線維化薬の投与が承認されるようになったが、早期より診断・治療介入を開始することの重要性に対する認識が広がりつつある一方で、疾患の進行を確認しなければ抗線維化薬を導入できないという問題を抱えていた。
こうしたアンメット・メディカル・ニーズの中、今回の研究によりTOLLIP遺伝子のrs5743899が早期治療導入を評価する一つの遺伝子マーカーになり得る可能性が示唆された。また、TOLLIPにより過剰な炎症や線維化に関わるさまざまなシグナル伝達を抑制できる可能性があり、「将来的にはシグナル伝達の異常な活性化により引き起こされる臓器の線維化に対する治療に応用できる可能性を秘めている」と、研究グループは述べている。
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