先行研究で、ADモデルマウスにグルコシルセラミド経口投与でアミロイド沈着が軽減
北海道大学は8月30日、植物由来セラミドが脳内アミロイドβペプチド(Aβ)蓄積を軽減させることを、ヒト介入試験の実施により発見したと発表した。この研究は、同大大学院先端生命科学研究院の五十嵐靖之客員教授、門出健次教授、湯山耕平特任准教授らの研究グループと、株式会社ダイセル、北海道情報大学健康情報科学研究センターと共同で行ったもの。研究成果は、「薬理と治療」に掲載されている。
画像はリリースより
アルツハイマー病(AD)は主要な老年期の認知症性疾患であり、現在早急な予防法・治療法の確立が望まれている。AD発症にはさまざまな要因が関与しているが、脳内でのAβ蓄積増加が主な原因と考えられており、脳内Aβレベルを制御することが予防・治療戦略の一つとして有望視されている。
研究グループはこれまでに、植物(こんにゃく芋)由来のグルコシルセラミドをアルツハイマー病モデルマウスに経口投与することで、Aβ除去作用をもつ細胞外小胞エクソソームが脳内で増加し、Aβ濃度が低下し、アミロイド沈着が軽減することを実験で明らかにしている。
高齢者20人を対象にヒト介入試験実施、摂取群で脳内Aβ蓄積が減少
今回研究グループは、ヒトにおける植物グルコシルセラミド経口摂取の効果を検証するため、プラセボ対照ランダム化二重盲検試験を実施した。試験期間を24週間とし、60歳以上80歳未満の被験者20人(平均70.1歳)を、プラセボ食品摂取群10人と被験食品(こんにゃくグルコシルセラミド)摂取群10人に構成し、並行群間比較試験を行った。それぞれの群にプラセボ食品、またはグルコシルセラミド5.4mgを含む被験食品を摂取してもらい、0週、12週、24週目に、脳内Aβアミロイド蓄積レベルをモニター可能な血漿アミロイドβバイオマーカーの測定を実施した。
研究に用いたこんにゃく由来グルコシルセラミドは、皮膚の保湿・バリア機能を高める機能性食品素材として販売している原料で、板こんにゃくの製造時に廃棄される「飛び粉」から抽出製造するサステナブルな原料であった。また、グルコシルセラミドは、多くの植物に含まれているが、小麦胚芽や米ぬかなどに比べ、こんにゃく芋の飛び粉抽出物はセラミド含有量が高いことがわかっている。
その結果、被験食品群において、0週目(摂取前)との比較で12週目に有意な低値を示した。さらに層別解析を行ったところ、摂取前の段階で血漿アミロイドβバイオマーカー値が相対的に低めの集団は、摂取12週後、24週後において被験食品群の変化量がプラセボ食品群より有意に低値を示した。
機能性食品素材や新薬開発につながる可能性
今回の結果は、植物グルコシルセラミドの持続的な摂取で脳内Aβ蓄積が軽減できる可能性を示しており、さらにAβアミロイド蓄積の初期段階に対して効果が高いことが示唆された。
脳内Aβ蓄積の抑制はAD予防の有効な戦略とされており、同研究で得られた新たな知見は機能性食品素材や新薬開発につながる可能性がある。今後研究グループは、「ヒト介入試験をさらに進め、認知機能分野における機能性素材の開発を推進する」と、述べている。
▼関連リンク
・北海道大学 プレスリリース