細胞の骨格となるアクチン、構築を促す重合因子の存在は?
新潟大学は8月19日、新規因子coactosin(コアクトシン)がアクチン細胞骨格に働きかけ、成長円錐の動きを活発にすること、さらに、成長円錐の前に伸びる動きをコントロールし、神経軸索の成長を促すことを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科神経発達学分野の侯旭濱特任助教、杉山清佳准教授ら、同研究科神経生化学分野の野住素広講師、五十嵐道弘教授、東北大学の仲村春和教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Cell and Developmental Biology」に掲載されている。
画像はリリースより
これまで、アクチン細胞骨格の重要性は知られていたが、細胞の動きとアクチン細胞骨格因子の動きを同時に観察することは技術的に困難だった。細胞の動きを観察する上で、観察の対象として神経細胞の成長円錐は非常に優れている。成長円錐の動きは、直接、神経軸索の成長と神経ネットワークの形成につながる。
細胞の骨格となるアクチンは、分解(脱重合)と構築(重合)を繰り返し、繊維状に伸びたり縮んだりする。この分解と構築の繰り返しにより、アクチン細胞骨格に動きが生まれ、細胞を動かす原動力になると考えられている。特に、アクチンを分解する脱重合因子としてcofilin(コフィリン)が知られているが、アクチンの構築を促す重合因子の存在は、これまでよくわかっていなかった。
アクチン構築を促す重合因子としてcoactosinを同定
今回、研究グループはcoactosinがアクチンの構築を促す重合因子として働くことを発見。培養した細胞の成長円錐の中で、蛍光標識をしたcoactosinを観察すると、手指の様に伸びるアクチン細胞骨格にcoactosinが強く結合し、アクチンの伸長を促す様子が観察された。さらに、coactosinを多く含む成長円錐ではアクチンの伸長が早くなり、成長円錐の前に伸びようとする動きを誘導することがわかった。ニワトリ胚の脳のなかで神経軸索を観察すると、coactosinの増加により神経軸索の伸長が早くなる現象が確認された。
また、培養した神経細胞においてcoactosinを欠損させると、成長円錐の中でアクチン細胞骨格の分解(脱重合)が進み、繊維が断片化する様子が観察された。さらに、分解(脱重合)と構築(重合)のバランスを取ろうとするように、cofilinの働きが抑制されることも判明。分解(cofilin)と構築(coactosin)の抑制は、アクチンの動きを鈍らせ、成長円錐の動きを停滞させると考えられる。その結果、培養下においても、ニワトリ胚の脳においても、神経軸索の成長は阻害され、通常よりも軸索が伸びないことがわかった。
Coactosin/cofilinによりアクチン細胞骨格が伸縮、神経細胞の動きを制御
本研究グループは今回の研究で、「細胞の動き」と「アクチン細胞骨格および因子の動き」を超解像度顕微鏡で観察した。
その結果、新たな因子coactosinがアクチンに結合し、アクチン細胞骨格の動きを積極的にコントロールすることを発見。さらに、coactosinやcofilinの働きによってアクチン細胞骨格が伸縮し、神経細胞の動きが制御されることを明らかにした。これらの研究成果は、神経ネットワークを作るとき、作り直すときに必要な「神経細胞の動きをコントロールする仕組み」の解明につながるとしている。
腫瘍マーカー候補coactosin、がん細胞の抑制などにも期待
今回、新たな因子coactosinがアクチン細胞骨格の動きに貢献することを明らかにされた。近年、coactosinは腫瘍マーカーの候補となることが報告されており、今後、がん細胞の動きの抑制や、免疫細胞の動きの活性化などに役立つことも期待される。
研究グループは、子どもの脳の発達において、coactosinが個々の経験に応じた神経ネットワークの形成に寄与すると期待している。アクチン細胞骨格の動きのコントロールは、脳の可塑性といわれる、学習に対応したネットワークの変化や、脳損傷後の機能の回復時のネットワーク修復など、機能の構築(再構築)にも貢献すると推測し、解析を進めているとしている。
▼関連リンク
・新潟大学 ニュース