医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 2型糖尿病患者へ最初に投与する糖尿病薬、日本・全国規模の実態調査-NCGMほか

2型糖尿病患者へ最初に投与する糖尿病薬、日本・全国規模の実態調査-NCGMほか

読了時間:約 4分17秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年08月25日 AM11:45

NDBを用いて、インスリン除く糖尿病治療薬を単剤で開始した成人2型糖尿病対象に

(NCGM)は8月23日、2型糖尿病患者に対して最初に投与される糖尿病薬についての全国規模の実態調査を実施し、DPP-4阻害薬が選択された患者が最も多く、ビグアナイド(BG)薬、SGLT2阻害薬がそれに続くこと、薬剤開始後1年間の総医療費はBG薬で治療を開始した患者で最も安いこと、DPP-4阻害薬およびBG薬の選択には一定の地域差、施設差があることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大、、東京大学、虎の門病院の研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Diabetes Investigation」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

日本における2型糖尿病の薬物療法は、日本人と欧米人の2型糖尿病の病態の違いなどを考慮して、特定の薬剤を第一選択薬には据えず、全ての薬剤の中から病態等に応じて治療薬を選択することを推奨している。そのため、BG薬を2型糖尿病に対する第一選択薬と位置付けている欧米とは処方実態に違いがあることが予想されているが、日本全体の治療実態についての詳細は不明だった。

そこで今回研究グループは、全国の診療実態を調べることができる匿名レセプト情報・匿名特定健診等情報データベース(NDB)を用いて、日本の2型糖尿病患者に対して最初に投与された糖尿病薬の処方実態を明らかにすることを目的とした全国規模の研究を実施した。

今回、NDBの特別抽出データ(2014~17年度)から抽出した成人2型糖尿病患者のうち、インスリンを除いた糖尿病治療薬を単剤で開始した患者を対象とし、研究期間全体および各年度別の各薬剤の処方数、処方割合、新規処方に関連する因子、さらに初回処方から1年間の総医療費を算出し、それに関連する因子についても検討した。対象患者数113万6,723人、総医療費の解析対象64万5,493人だった。

DPP-4阻害薬選択の患者が最多、薬剤選択に一定の地域間差や施設間差も

研究の結果、全体ではBG薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、スルホニル尿素(SU)薬、α−グルコシダーゼ阻害薬、チアゾリジン薬、グリニド薬、GLP-1受動体作動薬が最初に投与された糖尿病薬に占める割合が、それぞれ15.9%、65.1%、7.6%、4.1%、4.9%、1.6%、0.7%、0.2%だった。

2014年度(下半期のみ)~2017年度まで、年度毎の割合は、BG薬が経年的に増加、SGLT2阻害薬が著しく増加したのに対し、DPP-4阻害薬およびSU薬は減少傾向を示した。都道府県別では、BG薬が最大33.3%(沖縄県)、最小8.7%(香川県)、DPP-4阻害薬が最大71.9%(福井県)、最小47.2%(沖縄県)と違いを認めた。

各薬剤の選択に最も強く影響した因子は年齢で、高齢なほどBG薬、SGLT2阻害薬の処方割合は低く、DPP4阻害薬およびSU薬の処方割合が高いことが示された。施設によって処方実態が異なるかを検討したところ、大きく異なった薬剤はBG薬とDPP-4阻害薬で、BG薬は日本糖尿病学会(JDS)認定教育施設にて15~20%をピークとした分布(最初に投与された糖尿病薬のうち15~20%がBG薬であった施設が最も多かったことを意味する)であるのに対し、非認定教育施設では0~5%を急峻なピークとした分布を示し(最初に投与された糖尿病薬のうち0~5%がBG薬であった施設が多数を占めたことを意味する)、特に38.2%の非認定教育施設でBG薬の処方がなかった。

一方、DPP-4阻害薬はJDS認定教育施設にて60~65%をピークとした分布であるのに対し、非認定教育施設では95~100%をピークとした0%から100%にわたる緩やかな分布を示した(非認定教育施設では最初に投与する糖尿病薬としてほぼすべての患者に対してDPP-4阻害薬を選択する施設が最も多いものの、DPP-4阻害薬を選択しない施設も一定数存在した)。SGLT2阻害薬およびSU薬については、JDS認定施設も非認定施設も同様の処方実態を示した。

総医療費、BG薬がチアゾリジン薬を除くその他の薬剤より有意に低い

、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、SU薬の処方に関連する因子を同定することを目的とした多変量解析で、処方年度、性別、年齢×保険種区分、虚血性心疾患および慢性腎不全の合併、施設タイプ、病床数はいずれも有意な関連を認めた。

総医療費については、BG薬で治療を開始した患者が最も安く、SU薬、チアゾリジン薬が続き、GLP-1受容体作動薬が最も高いことが明らかとなった。多変量解析で、BG薬はチアゾリジン薬を除くその他の薬剤より総医療費が有意に低いことが示された。

高齢化が進んだ日本で、高齢患者ほどBG薬やSGLT2阻害薬を避ける可能性

今回の全国規模の調査によって、(1)日本の2型糖尿病患者に対して最初に投与される糖尿病薬は欧米と大きく異なりDPP-4阻害薬が最も多いこと、(2)BG薬で治療を開始した患者の総医療費が最も安いこと、(3)薬剤選択に一定の地域間差や施設間差があること、等が初めて明らかになった。

(1)の要因として、2型糖尿病の病態としてインスリン分泌低下の関与が大きく、患者の高齢化が進んだ日本において、DPP-4阻害薬が最初に選択される糖尿病薬として最も多く、高齢な患者ほどBG薬やSGLT2阻害薬が避けられていたことが考えられる。

(2)に関しては、BG薬が安価であることに加え、比較的若く臓器障害などがない患者にBG薬が選択されていたことも関与していると思われるという。総じて、今回研究の結果は、日本糖尿病学会のガイドラインや各薬剤に対するリコメンデーション等が広く認識されており、多くの患者に対して安全性と有効性に配慮した形で適切に薬剤が選択されていた可能性を示していると考えられる。

(3)に関しては、これが患者の肥満等の背景因子や糖尿病の病期の進展などの影響に基づくものなのかについてのさらなる調査が必要だとしている。また、同研究には、糖尿病の診断がレセプト情報に基づいていること、血糖コントロールの指標であるHbA1cなどの検査や肥満に関する情報がないこと、安全性(低血糖など)の評価がなされていないことなどの限界があり、他の研究手法による確認も必要だとしている。

薬剤選択の一助となるフローやアルゴリズムなどの作成が有効

今後、個々の患者に対する、より適切な薬剤選択などの診療の質の全国的な均てん化を進めるためには、薬剤選択に際し代謝異常の程度、年齢、肥満、その他の病態を考慮することについてのさらなる周知に加え、薬剤選択の一助となるフローやアルゴリズムなどの作成が有効と考えられる。

今回の研究により得られた成果を基に、どの薬剤の血糖改善効果が高いか、合併症予防効果が高いかを明らかにすることを目的とした研究が行われ、一人一人の糖尿病患者にとって最適な糖尿病の個別化医療の確立されることが望まれる、と研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 血液中アンフィレグリンが心房細動の機能的バイオマーカーとなる可能性-神戸大ほか
  • 腎臓の過剰ろ過、加齢を考慮して判断する新たな数式を定義-大阪公立大
  • 超希少難治性疾患のHGPS、核膜修復の遅延をロナファルニブが改善-科学大ほか
  • 運動後の起立性低血圧、水分摂取で軽減の可能性-杏林大
  • ALS、オリゴデンドロサイト異常がマウスの運動障害を惹起-名大