食道がんの再発は、がんゲノム異常が治療抵抗性の一因と考えられていた
九州大学は8月24日、化学放射線療法の効果が低く再発しやすい難治性食道がんのゲノム異常の特徴や、再発に至るがんゲノムの進化の過程を明らかにしたと発表した。この研究は、同大の三森功士教授、石神康生教授、平川雅和准教授、平田秀成医員(現・国立がん研究センター東病院)、東京大学医科学研究所ゲノム医科学分野の柴田龍弘教授(国立がん研究センター兼務)、新井田厚司講師、国立がん研究センター東病院の秋元哲夫副院長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Research」に掲載されている。
画像はリリースより
放射線治療と抗がん剤投与を同時に行う化学放射線療法は食道がんの有効な治療法の一つだが、治療後に再発することがある。がんゲノム(がん細胞のDNAに含まれる遺伝情報)異常が治療抵抗性の一因と考えられているが、その詳細は解明されていない。
ドライバー遺伝子異常を持つがん細胞は治療後も生き残り、再発の源になっていた
今回研究グループは、食道がん患者33人より化学放射線療法前に得た腫瘍と、このうち5人の再発腫瘍から次世代シークエンサーを用いた包括的ゲノムデータを取得し、スーパーコンピュータを用いた数理統計解析を行った。
その結果、治療前にMYC遺伝子のコピー数が増加している食道がんでは治療効果が低いことがわかった。公共のがん細胞株データベースにおいても、食道がんのMYCコピー数増加は放射線治療抵抗性と相関していた。さらに再発腫瘍のゲノムを時空間解析した結果、がんの進展に重要な役割を果たすドライバー遺伝子異常(MYCコピー数増加など)を持つがん細胞は治療後も生き残り再発の源になること、再発時に新たに獲得するドライバー遺伝子異常は少数であること、がんゲノムの進化に治療が与える影響が明らかになった。
化学放射線療法の個別化医療・精密医療の開発、難治性食道がんの新規治療開発につながる可能性
今回の研究成果は、治療抵抗性の理解を深め、がんゲノム情報に基づく化学放射線療法の個別化医療・精密医療の開発や、難治性食道がんの新たな治療開発につながると期待される。
「食道がんをはじめ、多くのがんで化学放射線療法後に再発する原因はよくわかっていない。今回、そのメカニズムの一端が明らかになった。本研究が難治がんの克服に少しでも役立てば幸いだ」と、研究グループは述べている。
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