インド株B.1.617系統のスパイクタンパク質の変異は中和抗体感受性に影響するか
東京大学医科学研究所は8月20日、新型コロナウイルスの「懸念すべき変異株」である「インド株(B.1.617系統)」に存在するスパイクタンパク質の「L452R変異」および「E484Q変異」はそれぞれ中和抗体感受性を減弱させるが、両変異の組み合わせによる相乗的な効果はなく、相加的な抵抗性は示さないことを明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所附属感染症国際研究センターシステムウイルス学分野の佐藤准教授が主宰する研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan(G2P-Japan)」と英国の研究グループとの共同研究によるもの。研究成果は「The Journal of Infectious Diseases」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、2021年7月現在、全世界において2億人以上が感染し、350万人以上を死に至らしめている、現在進行形の災厄である。現在、世界中でワクチン接種が進んでいるが、2019年末に突如出現したこのウイルスについては不明な点が多く、感染病態の原理やウイルスの複製原理、免疫逃避と流行動態の関連についてはほとんど明らかになっていない。
新型コロナウイルスによる感染や新型コロナウイルスに対するワクチン接種後、体内では「液性免疫(中和抗体)」が誘導される。アルファ型(イギリス株)やガンマ型(ブラジル株)などの新型コロナウイルスの「懸念すべき変異株」については、液性免疫(中和抗体)から逃避する可能性が懸念され、世界中で研究が進められている。2020年末にインドで出現した「懸念すべき変異株」を含むB.1.617系統は、その出現後、B.1.617.1、B.1.617.2、B.1.617.3という3つの亜系統に分岐し、その1つであるB.1.617.2亜系統が、「懸念すべき変異株」の1つ「デルタ株」として世界で猛威を振るっている。
それぞれ中和抗体感受性を減弱させるが、両変異の組み合わせによる相乗的な効果はない
研究では、B.1.617系統の1つであり、「注目すべき変異株」として認識されるB.1.617.1系統(カッパー株)に着目し、そのスパイクタンパク質に存在する「L452R変異」および「E484Q変異」について、新型コロナウイルス感染症に対するワクチン接種者の血清を用いて、中和抗体感受性に与える影響を調べた。L452R変異は、現在世界中で流行拡大しているインド株に特徴的な変異で、日本国内においてもインド株による感染拡大が懸念されている。
その結果、「L452R変異」および「E484Q変異」はそれぞれ中和抗体感受性を減弱させるものの、両変異の組み合わせによる相乗的な効果はなく、相加的な抵抗性は示さないことを明らかにした。
現在、「G2P-Japan」ではインド株におけるワクチン有効性、中和抗体感受性、病原性についての研究に取り組んでいる。「G2P-Japanコンソーシアムでは、今後も、新型コロナウイルスの変異(genotype)の早期捕捉と、その変異がヒトの免疫やウイルスの病原性・複製に与える影響(phenotype)を明らかにするための研究を推進する」と、研究グループは述べている。
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