日本の新規透析導入原因疾患の第4位「多発性囊胞腎」
東北大学は8月23日、長期的運動が多発性嚢胞腎モデルラットの運動耐容能を向上させ、腎嚢胞形成、細胞増殖、腎糸球体障害を抑制することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科内部障害学分野の仇嘉禾大学院生、上月正博教授、東北医科薬科大学リハビリテーション学の伊藤修教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Medicine & Science in Sports & Exercise」に掲載されている。
画像はリリースより
多発性囊胞腎は、その有病率が2,000〜4,000人に1例と推測される遺伝子変異疾患。両側腎臓に多数の囊胞が進行性に発生・増大し、さらに高血圧や肝囊胞、脳動脈瘤などを合併する。多発性囊胞腎患者は60歳までに約半数が末期腎不全に至る。日本では新規透析導入の原因疾患の第4位となっており、その治療対策の重要性が喫緊の課題だ。
多発性囊胞腎の原因は、腎臓で機能している一次繊毛関連タンパク遺伝子の変異。繊毛の機能異常が原因となって細胞内カルシウム濃度が低下し、その結果、細胞増殖を促進する因子(cAMP)が過剰に産生され、腎尿細管細胞が増殖、囊胞が増大する。現在、多発性囊胞腎の腎腫大や腎機能低下に対して有効性の示された薬剤は、腎臓におけるcAMP産生を抑制するトパブタン。多尿、口渇等の副作用頻度が高く、患者のQOL低下、治療の脱落率の高さが課題だ。他に、多発性囊胞腎において腎障害の進行を抑制する治療としては、降圧療法、タンパク質制限食等が考えられているが、医学的な証拠はほとんどない。
近年、透析治療までは必要ないものの、腎機能がある程度以上悪くなった状態の慢性腎臓病患者では、長期的運動による運動耐容能改善、低栄養・炎症・動脈硬化複合症候群改善、タンパク質異化抑制、QOL改善、透析導入時期延長等の効果が明らかにされている。しかし、多発性嚢胞腎に対する長期的運動の有効性を検証した報告はこれまでなく、その効果は明らかになっていなかった。
モデルラットで腎嚢胞増大、嚢胞周囲の細胞増殖、糸球体障害などを抑制
今回、研究グループは、多発性嚢胞腎モデルラットを用い、腎嚢胞増大や腎不全進展に対する中強度長期的運動(最大運動負荷の65%程度)の安全性や有効性を検証した。
その結果、尿タンパクの減少、腎嚢胞増大、嚢胞周囲の細胞増殖、糸球体障害、腎間質線維化の抑制など、長期的運動が多発性嚢胞腎モデルラットの腎臓臓器障害を抑制することを世界で初めて明らかにした。
長期的運動、腎臓のcAMPを増加させず尿細管の細胞増殖抑制
この機序として、長期的運動は腎臓におけるcAMPを増加させず、尿細管の細胞増殖を抑制することで、病態の進行を抑えていることが考えられる。
今回の研究結果により、運動療法が多発性囊胞腎の新たな治療法として期待される、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東北大学 プレスリリース