先行研究でI型IFNの重要な働きを解明、大規模調査を実施
広島大学は8月19日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者5,857例および健常者3万4,159例の検体を収集して、I型インターフェロン(IFN)に対する中和抗体の保有状況を調査し、その結果を発表した。この研究は、フランスイマジン研究所のPaul Bastard氏、米国ロックフェラー大学のJean-Laurent Casanova氏、同大大学院医系科学研究科小児科学の岡田賢教授、江藤昌平大学院生、津村弥来研究員、同大大学院医系科学研究科疫学・疾病制御学の田中純子教授、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科発生発達病態学分野の森尾友宏教授、同感染制御部の貫井陽子准教授らの研究グループと、他の研究グループと共同で結成された国際共同研究グループ(COVID HUMAN GENETIC EFFORT:CHGE)によるもの。研究成果は、「Science Immunology」に掲載されている。
画像はリリースより
COVID-19の多くは軽症、ないしは無症状で経過する一方、5~10%の患者は重篤な経過をとることから、重症化リスクを持つ患者を適切に選択して早期に治療介入を行うことが大切だ。COVID-19は国際的な脅威であることから、研究グループは国際共同研究グループ(CHGE)に参加し、COVID-19重症化のメカニズムを解明するために研究に取り組んできた。これまでの研究から、CHGEはCOVID-19に対する感染免疫にI型IFNが重要な働きを果たすことを明らかにしている。
実際、COVID-19の最重症例(987例)と、無症状・軽症例(663例)に対してI型IFNに対する自己抗体を測定したところ、最重症例での保有率が約10%(101人/987人)であるのに対し、無症状・軽症例での保有率は0%(0人/663人)であったことを過去に報告している。この知見は、COVID-19の重症化リスクを知る上で重要で、社会的にもインパクトがある知見であると考えた研究グループは、この先行研究を大規模な追試により検証する必要があると判断し、今回の研究を実施した。
最重症例13.6%、死亡例18%でI型IFNに対する中和抗体を保有
38か国よりCOVID-19患者5,857例および健常者3万4,159例の検体を収集し、I型IFNに対する中和抗体を測定した。その結果、COVID-19最重症例(集中治療室で全身的な管理が必要な症例)のうち13.6%(そのうち80歳以上では21%)、死亡例のうち18%が、I型IFNに対する中和抗体を保有することが判明した。さらに、国外では70歳以上の健常者(未感染者)の約4%が、同中和抗体を保有していることもわかった。
並行して行った日本での調査では、COVID-19未感染の健常者のうち0.3%(1,000人中3人)がI型IFNに対する中和抗体を保有することが明らかとなった。
I型IFN中和抗体の迅速な測定が実現による重症化リスク予測、治療選択に期待
今回の大規模な追試により、COVID-19死亡例・最重症例でI型IFNに対する中和抗体の保有頻度が高いことが確認された。現在、日本におけるCOVID-19症例の検体を収集し、同中和抗体の保有状況を検討している最中だという。
「将来的にCOVID-19感染者に対する本中和抗体の迅速な測定が実現すれば、発症早期に重症化リスクを予測し、それに応じて治療法を選択することが可能になると期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・広島大学 プレスリリース