舌やオトガイ舌骨筋という嚥下関連筋の衰えと加齢の関係は?
東京医科歯科大学は8月17日、嚥下関連筋の研究において、筋肉の質の指標である筋内脂肪組織の加齢変化と、その関連因子を示したことを発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野の戸原玄教授と山口浩平特任助教の研究グループによるもの。研究成果は、「Experimental Gerontology」に掲載されている。
画像はリリースより
摂食嚥下障害は、噛んだり飲んだりする機能の障害で、誤嚥や窒息が主な症状である。重症になると誤嚥性肺炎、あるいは経口摂取自体が困難となり、胃ろうなどの経管栄養を要するようになる。加齢や疾患などさまざまな要因で嚥下障害は起こるが、舌やオトガイ舌骨筋という嚥下関連筋の衰えもその一因と考えられている。
手足など四肢筋では、その量や質が身体機能低下や死亡など有害な事象と関連することがすでに明らかになっているが、嚥下関連筋においてはその加齢変化も十分に検討されていなかった。
研究グループは以前、嚥下関連筋量の加齢変化と関連因子について報告しているが、筋質に関しての報告はなかった。筋肉の質は筋内の脂肪組織で表され、超音波診断装置で評価可能だ。そこで今回の研究では、嚥下障害でない健常成人を対象に、舌、オトガイ舌骨筋の筋内脂肪組織に着目し、その加齢変化と関連因子を明らかにすることを目的とした。
嚥下関連筋の筋輝度と口腔機能、体組成との関連を研究
20~87歳の男女89人を対象に、超音波診断装置を用いて、舌、オトガイ舌骨筋の断面積、筋輝度を評価した。筋輝度は筋内の脂肪組織を示し、筋質の指標で、数字が小さいほど筋内脂肪組織が少ないことを示す。筋内の脂肪組織は非収縮組織のため、その量が少ない方が筋肉の質は良いことになる。対象者を65歳未満の成人群と65歳以上の高齢者群に分けて嚥下関連筋の筋輝度を比較し、また、嚥下関連筋の筋輝度と口腔機能、体組成の相関関係、その関連因子を統計的に解析した。
口腔機能は舌圧、開口力、オーラルディアドコキネシス、体組成は体格指数、徐脂肪体重、体脂肪率、四肢骨格筋量指数(SMI)、体幹筋量指数(TMI)を計測した。舌圧、開口力は舌、オトガイ舌骨筋の筋力であり、専用の測定器で測る。オーラルディアドコキネシスは舌の器用さの指標で、5秒間でできる限り早く「タ」、「カ」を発声してもらい1秒あたりの回数を算出して計測値とする。体組成は、生体電気インピーダンス法という簡易で精密な手法で計測した。SMIは四肢骨格筋量を、TMIは体幹筋量を身長の二乗で除して算出した。
舌、オトガイ舌骨筋いずれも高齢者は若年者に比べて筋質が低下
結果、舌、オトガイ舌骨筋いずれも高齢者群が成人群よりも筋輝度が高値で、筋内脂肪組織が多い、すなわち筋質の低下を示した。しかし、嚥下関連筋の筋輝度は口腔機能と有意な相関関係にはなかった。嚥下関連筋の質の低下がどのような障害と深く関連しうるかは今後のさらなる研究が必要だ。
また、嚥下関連筋の筋輝度は年齢、当該筋断面積と関連することもわかった。年齢が高いほど、また筋断面積が小さいほど、筋内に占める脂肪量の割合が高い傾向であることがわかった。基本的に筋肉は加齢で萎縮するため、嚥下関連筋においても、筋萎縮は筋質の低下にもつながる可能性が考えられた。一方、嚥下関連筋の筋輝度と全身の骨格筋量や栄養状態の関連は認められなかった。
生活習慣指導など早期の介入が軽微な嚥下機能低下を防ぐ上で有用な可能性
四肢の筋肉の機能を保つためには、食事や運動など日々の生活習慣が重要だ。嚥下関連筋も加齢で衰えるため、生活習慣指導など早期の介入が軽微な嚥下機能低下を防ぐ上で有用な可能性がある。「ちょっとしたむせの増加などといった変化は、嚥下関連筋の衰えも関係しているかもしれない。今後、さらなる検討を進めたい」と、研究グループは述べている。
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