髄膜腫は研究モデルの樹立が困難だった
名古屋大学は8月17日、髄膜腫の腫瘍検体を用いて、新たな実験モデルである髄膜腫オルガノイドモデルの樹立に成功したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科・脳神経外科の山﨑慎太郎大学院生、大岡史治講師、夏目敦至准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Neuro-Oncology」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
髄膜腫は最も高頻度にみられる原発性脳腫瘍。良性腫瘍が多く、多くの症例では手術のみで予後良好だが、良性であっても手術で取り切れなかった場合や悪性の場合は、手術後に放射線治療が行われるが、有効な薬物療法は見つかっておらず、再発を繰り返し、生命を脅かす。近年、髄膜腫の大規模な分子解析研究により、重要な分子異常が同定されてはいるが、これらの分子異常を標的とした薬物療法の開発研究は進んでいない。髄膜腫では細胞株や動物モデル等の研究モデルの樹立が困難であり、いまだその病態の核心を捉え切れていないことが、薬物療法の開発が進まない大きな原因になっている。
近年さまざまながん腫で三次元培養技術を利用したオルガノイドモデルが有望な研究モデルとして注目されている。オルガノイドモデルは、これまでに細胞株等の樹立が難しかった腫瘍でも高い成功率を示すことも報告されている。そこで研究グループは今回、髄膜腫の摘出腫瘍検体を用いて、病態解析に有用な新たな実験モデルとし、髄膜腫オルガノイドモデルを樹立することを目的として研究を行った。
手術摘出直後の腫瘍検体を用いて、長期間培養可能な髄膜腫オルガノイドモデルを樹立
研究グループは、細胞培養の足場となる細胞外マトリックスとしてマトリゲルを使用し、髄膜腫14症例、孤立性線維性腫瘍(Solitary fibrous tumor: SFT)2症例に対して手術摘出直後の腫瘍検体を3次元培養した。その結果、全症例で長期間培養可能なオルガノイドモデルを樹立できた。
樹立したオルガノイドモデルは、その元となる腫瘍の性質を反映していることを確認するため、それぞれヘマトキシリン・エオジン染色、免疫組織染化学染色を行い、組織学的特徴を維持していることを確認した。また、遺伝子学的特徴の検証のために遺伝子変異解析、遺伝子発現解析、DNAメチル化解析を行ったが、分子プロファイリングも維持できており、樹立したオルガノイドモデルは患者腫瘍の特徴を忠実に反映した実験モデルと考えられたという。
高発現した「FOXM1」が悪性髄膜腫の新規治療標的となる可能性
これまで、FOXM1遺伝子は悪性髄膜腫において発現が亢進している遺伝子の一つであり、髄膜腫の増殖に重要な遺伝子である可能性が示唆されていたが、その検証実験と治療標的としての有用性の評価は行われていなかった。
そこで研究グループはFOXM1遺伝子に着目し、元々FOXM1の発現が少ない良性髄膜腫由来のオルガノイドモデルにFOXM1強制発現ベクターを導入した。すると、FOXM1の発現を増加させる腫瘍の増殖が促進された。逆に、FOXM1を高発現している悪性髄膜腫由来のオルガノイドモデルでsi-RNAを用いてFOXM1のノックダウンを行うと、腫瘍増殖が抑制された。さらに、FOXM1阻害剤であるthiostreptonと悪性髄膜腫の標準治療である放射線照射を組み合わせることにより、悪性髄膜腫オルガノイドモデルの増殖が有意に抑制されることが明らかになった。
オルガノイドモデルでFOXM1の腫瘍増殖抑制メカニズム解明目指す
今回の研究では、これまで報告のない髄膜腫オルガノイドモデルの樹立に成功し、この実験モデルを用いることで、高発現したFOXM1が髄膜腫の腫瘍増殖促進に影響しており、新たな治療標的となる可能性を示した。
「本研究で示されたFOXM1阻害剤の治療効果について、髄膜腫オルガノイドモデルを用いてさらに詳細な腫瘍増殖抑制メカニズムの解明を目指す。また、髄膜腫において高発現したFOXM1が誘導する分子異常を同定することで、新たな治療戦略の確立を目標とする」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・名古屋大学 プレスリリース