サルコペニア、高齢者が生活の質を損なう主因に
日本医科大学は8月17日、転写因子Krüppel-like factor 5(KLF5)が筋萎縮を促進すること、KLF5の働きを抑える薬剤Am80により筋萎縮の発症を防ぐ可能性を発見したと発表した。この研究は、同大生化学・分子生物学の大石由美子教授、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子情報伝達学分野の中島友紀教授、千葉大学大学院医学研究院疾患システム医学の眞鍋一郎教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」に掲載されている。
画像はリリースより
骨格筋の萎縮は、寝たきりの生活や運動不足、低栄養、低重力などさまざまな要因によって生じる。加齢に伴う筋萎縮であるサルコペニアは、高齢者が生活の質を損なう主因となるため、日本において重要な問題となっている。しかし、筋萎縮に対する効果的な治療・予防法はなく、新たな治療法を開発するには、筋萎縮を制御するメカニズムを明らかにする必要がある。
KLF5、サルコペニアなどの筋委縮の病態にも関与の可能性
今回、研究グループは、萎縮したマウスの筋肉で転写因子KLF5が増加することを発見。また、KLF5の機能を阻害する薬剤Am80によって、筋萎縮が起こりにくくなることをマウスで明らかにした。
後ろ肢に体重がかからないような装置でマウスを飼育すると、3日目には後ろ肢の筋重量が減り、萎縮を起こした。このとき、萎縮した筋肉ではKLF5が一時的に増加していたという。
次に、骨格筋特異的にKLF5遺伝子を欠損したマウスを、同様に後ろ肢に体重がかからないような装置で飼育すると、筋肉の萎縮が抑制された。このことから、筋萎縮の発症に、KLF5が重要な働きを担うことが明らかになった。また、マウスにAm80を飲ませておくと、後ろ肢に体重がかからない状態で飼育しても、筋萎縮が起こりにくくなったという。
さらに、ヒトにおいても、加齢や寝たきりの生活では筋肉におけるKLF5の発現が増加することが確認された。これらの結果は、KLF5がサルコペニアなどヒトの筋萎縮の病態にも関与している可能性を示唆している。
Am80、前骨髄球性白血病治療薬として使用
研究で用いられた薬剤Am80は、すでに前骨髄球性白血病の治療薬として使われているもので、その安全性や安定性は確立されている。KLF5の抑制薬は、筋萎縮に対する治療・予防法となる可能性が示唆され、今後の展開が期待される、と研究グループは述べている。
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・日本医科大学 プレスリリース