脳卒中専門医の人数と脳卒中のタイプごとの死亡率を分析
国立循環器病研究センターは8月16日、日本の施設単位の脳卒中関連学会の専門医師数が脳卒中の予後(死亡率)に与える影響を「J-ASPECT研究」のビッグデータを用いて初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同センター予防医学・疫学情報部の西村邦宏部長、飯原弘二病院長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Circulation Journal」に掲載されている。
画像はリリースより
脳卒中は、世界中で身体障害や死亡の重要な原因となっている。日本では、脳卒中は死亡原因の第4位であり、長期障害の主な原因。国内では年間約27万人が新規または再発の脳卒中を発症し、約12万人が脳卒中後に死亡している。一昨年、日本では一次脳卒中センターが認証された。専門医師数と入院治療成績との関係についてはよく知られているが、脳卒中については、施設で必要な専門医師数に関しては大規模な統計データからこれまで検討されていなかった。
研究グループは、DPC(入院医療費の支払い制度)情報を活用した「J-ASPECT研究」を、日本脳卒中学会、日本脳神経外科学会との連携のもと10年前から継続している。J-ASPECT研究は、日本で最大の脳卒中・脳神経外科医療のデータベース事業で、775施設から429万件が登録されている。今回のこのJ-ASPECT研究データから、2010~2016年に、虚血性脳卒中、脳内出血(ICH)、くも膜下出血(SAH)で入院した患者を抽出し、脳卒中診療医および関連する学会専門医の数と入院後30日以内の死亡との関係を検討した。
脳神経外科/脳卒中の学会専門医6人以上の施設で30日死亡率が低下
30日院内死亡率のオッズ比を、一般化混合ロジスティック回帰を用いて、施設や患者年齢、重症度の違い等を調整した後に推定した。虚血性脳卒中(脳梗塞)29万5,150人、脳内出血9万8,657人、くも膜下出血3万6,174人の患者の30日以内の院内死亡率はそれぞれ4.4%、16.0%、26.6%であった。
全ての脳卒中のタイプにおいて、脳卒中関連の総専門医数、脳神経外科学会専門医数、神経学会専門医数、脳卒中学会専門医数は、入院30日死亡率の低下と有意に関連していることがわかった。30日以内の院内死亡率の低下に対する、脳神経外科学会および脳卒中学会専門医数については、全ての病型でそれぞれ6人以上の専門医がいる施設で30日死亡率の低下を認めた。脳梗塞(オッズ比[95%信頼区間]:脳神経外科学会0.83[0.75-0.92]、脳卒中学会0.84[0.77-0.93])、脳内出血(脳神経外科学会0.88[0.79-0.99]、脳卒中学会0.79[0.71-0.89]、くも膜下出血(脳神経外科学会0.78[0.68-0.90]、脳卒中学会0.77[0.68-0.87])だった。
また、神経学会専門医数は、虚血性脳卒中患者においてのみ、30日間の院内死亡率と関連しており、その閾値は4人以上(0.89[0.80-0.98])だった。このことは閾値以上の数の専門医数がいる病院では、脳卒中患者の死亡率が11~23%低下していることを示すという。
専門医数の閾値の正確な解釈には、今後さらなる研究が必要
脳卒中を診療する専門医の数が多いほど、全てのタイプの脳卒中で院内死亡率が低下することが示された。専門医の人数の閾値は、専門分野と脳卒中の種類によって異なっていた。同研究は、日本の脳卒中診療を行う病院で、死亡率の低減に必要な専門医の数を初めて定量的に検討し、脳卒中治療医の必要数を客観的に示したものである。
ただし、脳卒中の治療成績は、一般に医療のプロセス等、今回の研究では測定されていない多くの因子にも影響されるため、今回の専門医数の閾値の正確な解釈には、今後さらなる研究が必要だ。「今後の地域医療計画策定、高度脳卒中診療の集約化の観点から、重要な情報を提供する研究と考えている」と、研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース