回腸や結腸などの運動性に対するn-3多価不飽和脂肪酸の影響は?
東邦大学は8月10日、魚油に多く含有され、健康食品成分としても注目されているドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)が下部消化管平滑筋の収縮反応を非選択的に抑制することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大薬学部薬理学教室の田中芳夫教授、吉岡健人助教、小原圭将講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Biological and Pharmaceutical Bulletin」に掲載されており、Highlighted paper selected by Editor-in-ChiefおよびFeatured Articleとして推薦されている。
画像はリリースより
DHAとEPAは、魚油に豊富に含有されるn-3多価不飽和脂肪酸であり、健康食品成分としても注目されている。これらのn-3多価不飽和脂肪酸は、抗炎症作用により、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患を改善することが報告されている。しかし、これらの疾患の好発部位である回腸や結腸などの下部消化管の運動性に対するn-3多価不飽和脂肪酸の影響はほとんど研究されていなかった。
DHA/EPAがモルモットの回腸縦走筋、結腸縦走筋の収縮反応を非選択的に抑制
研究グループは、DHAとEPAの下部消化管の運動性に対する影響を明らかにするため、マグヌス法を用いてモルモットから摘出した回腸・結腸縦走筋の各種生理活性物質による収縮反応に対するn-3多価不飽和脂肪酸であるDHAとEPAの効果を検討し、その効果を植物油に多く含有されるn-6多価不飽和脂肪酸であるリノール酸(LA)の効果と比較した。
DHAおよびEPA(それぞれ3×10−5M)は、アセチルコリン、ヒスタミン、プロスタグランジン(PG)F22αにより誘発される回腸および結腸縦走筋の収縮反応を有意に抑制した。結腸縦走筋では、DHAとEPAはPGD2により誘発される収縮反応に対しても有意な抑制効果を示した。なお、DHAおよびEPAの抑制効果は、LA(3×10−5M)の抑制効果よりも強力なものだったという。
さらに、DHAおよびEPAは、Ca2+を含まない高カリウム液中で、CaCl2により誘発される回腸および結腸縦走筋の収縮反応を有意に抑制した。また、アセチルコリン、ヒスタミン、PGF22α、PGD2により誘発される回腸および結腸縦走筋の収縮反応は、電位依存性Ca2+チャネル抑制薬であるベラパミル(10−5M)によって完全に消失した。
電位依存性Ca2+チャネルの活性化を介して反応を抑制するというDHA/EPAの性質が関与
これらの結果から、DHAおよびEPAが、電位依存性Ca2+チャネルに直接作用するか、電位依存性Ca2+チャネルの活性化に引き起こされる細胞内情報伝達に作用することで、各種生理活性物質により生じる腸管の運動機能亢進を抑制する可能性が示唆された。
「これらの知見は、DHAおよびEPAが、電位依存性Ca2+チャネルに依存した回腸・結腸の収縮反応を抑制することで、炎症性疾患に関連する下部消化管の収縮機能異常を改善できる可能性を示唆している」と、研究グループは述べている。
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