KRAS阻害剤の効果が続かない原因を明らかにすべく、肺がん細胞モデルで研究
近畿大学は8月7日、肺がん治療薬として申請中のKRAS阻害剤(一般名:ソトラシブ)の効果を妨げる原因が、遺伝子異常にあることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部内科学教室(腫瘍内科部門)の鈴木慎一郎助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Clinical Cancer Research, a journal of the American Association for Cancer Research」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
肺がんは世界で最も罹患数の多いがんの一つ。2019年の国立がん研究センターの調査では、日本国内における死亡率が高いがんとして男性で第1位、女性では第2位と、大変予後の悪いがんとして知られている。
KRAS遺伝子異常は、肺がんなど多くのがんでみられる遺伝子の異常で、発がん原因の一つとなっている。これまで有効な治療法はなかったが、近年、KRAS阻害剤の有効性が証明され、肺がん治療薬として米国などで使用されるようになった。日本においても承認申請中だ。しかし、KRAS阻害剤によって腫瘍が小さくなった患者でも、治療開始11か月後以降は腫瘍が増大する傾向がみられる。これは治療上の大きな問題だが、原因不明であり、その解明が急務とされていた。そこで研究グループは今回、KRAS阻害剤の効果が一時的である原因を解明するため、肺がん細胞モデルを用いた研究を行った。
MET遺伝子の増幅により、KRAS阻害薬の治療抵抗性を獲得
研究では、KRAS阻害薬に効果がある肺がん細胞モデルに、少量から徐々に長期間KRAS阻害薬を曝露させることによって、KRAS阻害薬に効果がない(治療抵抗性)肺がん細胞モデルを作り、治療抵抗性を獲得する前後の細胞モデルを比較することで、なぜKRAS阻害薬の治療効果が得られなくなったのかを調べた。その結果、活性化したMETタンパクが過剰に発現していることによって治療抵抗性が獲得されたことがわかった。
活性化したMETタンパクの原因を調べるために、MET遺伝子を赤く識別するFISH法を行ったところ、KRAS阻害薬の効果がある肺がん細胞モデルに比べ、治療抵抗性を獲得した細胞モデルの方がMET遺伝子(赤い点)が多く、MET遺伝子が増幅されていることが判明。MET遺伝子の増幅は、KRAS阻害薬と同様の分子標的薬であるEGFR阻害薬でも治療抵抗性に関与していることが知られている。つまり、MET遺伝子の増幅によって、KRAS阻害薬の治療抵抗性を獲得していることが明らかになった。
また、マウスを用いた動物試験で、KRAS阻害薬やMET阻害薬単剤ではKRAS阻害薬抵抗性の肺がん細胞株に効果が得られなかったが、併用することで腫瘍縮小が得られたという。
MET阻害剤を含む新たな治療法が有望である可能性
今回の研究結果は、今後の治療戦略において重要な鍵となり得ると言える。「本研究は、MET遺伝子異常がKRAS阻害剤への治療抵抗性の原因であり、MET阻害剤を含む新たな治療法が有望であることを示す画期的なものだ」と、研究グループは述べている。
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