医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > ギッテルマン症候群、日本人の有病率は他民族よりはるかに高いと判明-神戸大ほか

ギッテルマン症候群、日本人の有病率は他民族よりはるかに高いと判明-神戸大ほか

読了時間:約 2分57秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年08月11日 AM11:15

遺伝性の尿細管疾患、4万人に1人とされるが実際は未診断が多い可能性

神戸大学は8月10日、ゲノムデータベースを用いて各民族におけるギッテルマン症候群の有病率を推算した結果、日本人では他民族より多く、約1,000人に1.7人と既報(約4万人に1人)よりもはるかに多くの患者が存在する可能性が示唆されたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科の近藤淳医員、野津寛大教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。

ギッテルマン症候群はSLC12A3遺伝子異常による常染色体劣性遺伝性疾患である遺伝性塩類喪失性尿細管機能異常症。保因者頻度は1%、有病率は約4万人に1人といわれているが、これまで正確な有病率は不明だった。

ギッテルマン症候群は、生命予後は良好とされるが、血液中のカリウムなどの電解質のバランスが取れなくなることで、易疲労感や筋力低下、夜尿、塩分嗜好などによるQOL低下をきたし、致死的不整脈を呈する場合もある。しかし特異的な症状がなく、この疾患を疑って血液検査を行わなければ正確に診断がなされないため、適切な治療を受けられていない患者が多いことが予想された。

実際、研究グループの経験においても、精神疾患などと誤診されている症例や、著明な倦怠感を自覚しているにもかかわらず患者本人が病気による症状と自覚していなかった症例など、長年症状に苦しみながらも適切な診断および治療が行われていない症例が多く認められた。研究グループは、ギッテルマン症候群の真の有病率が既報よりも高く、より身近な疾患であると判明すれば、それを啓発することで早期の診断や治療開始の一助になるのではないかと考え、今回の研究を実施した。

複数のゲノムデータベースを用いて民族ごとの有病率を推算

HGMD(R) Professional(ヒト遺伝子変異データベース)に病原性を有する遺伝子変異として登録されたSLC12A3遺伝子の全てのミスセンスまたはナンセンス変異(247変異)を対象とし、そのうちインターネット上に公開されている複数の遺伝子データベース(HGVD、jMorp、gnomAD)において各民族におけるアレル頻度が報告されている変異(140変異)について、それらの総アレル頻度を計上。ハーディ・ワインベルグの法則(有性生殖を行う種において十分大きな個体群で自由交配が行われ次世代集団を作るとき、対立遺伝子の頻度は世代が移り変わっても変化しないこと)が成立すると仮定すると、常染色体劣性遺伝形式をとることから、上記の総アレル頻度をqとすると、ギッテルマン症候群の保因者頻度は2q、有病率はq2となると推定され、この理論に基づき民族別の割合を算出した。

多くの民族で既報よりも高い有病率、特に日本人では約1,000人に1.7人

結果、推定保因者頻度は日本人で約9%、その他の民族で0.7~5.8%だった。また、1,000人あたりの推定有病率は日本人で約2人、その他の民族で0.012~0.8人だった。

日本人の推定有病率が他民族より高かった原因として、日本人で特にアレル頻度が高い9変異(アレル頻度≧0.001)の影響が考えられた。これらの変異について、病原性の有無が確定していない3変異を除外した場合においても、日本人での推定保因者頻度は約8%、有病率は1,000人に約1.7人だった。

電カルデータを用いた後方視的研究でも矛盾しない結果

上記の研究結果が妥当であるかを確かめるために、研究グループは、電子カルテデータを用いた後方視的研究を実施。対象は2010年1月1日~2020年12月31日の間に神戸大学医学部附属病院の外来で血液検査を施行した16歳以上30歳以下、かつ血清カリウム値を含む血液検査を施行した患者、1万4,335人とした。そのうち血清カリウム値が3.1mEq/L以下の低カリウム血症の患者は143人であり、ギッテルマン症候群以外の明らかな原因が同定されていない患者は13人だった。

以上から、同院外来患者においてギッテルマン症候群である可能性がある患者は1,000人に約0.9人だった。これは上記の研究結果と比較すると少ないが、対象の年齢および血清カリウム値の基準を緩和すればさらに多くの患者が存在することが予想され、大きく矛盾はしないと判断された。

今回の研究はデータベースの正確性が重要であり、今後さらなる遺伝子情報の蓄積が望まれる。ギッテルマン症候群は疑って検査を行わないと診断に至ることは困難であるため、日常生活に支障をきたすような倦怠感などの症状を呈するにも関わらず見逃されがちであり、患者本人も病気による症状と自覚していない場合もある。今回の研究結果からそのような患者が潜在的に多く存在する可能性が示唆された。今後、適切な検査と治療が行われ、患者のQOL改善につながることが期待される。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 血液中アンフィレグリンが心房細動の機能的バイオマーカーとなる可能性-神戸大ほか
  • 腎臓の過剰ろ過、加齢を考慮して判断する新たな数式を定義-大阪公立大
  • 超希少難治性疾患のHGPS、核膜修復の遅延をロナファルニブが改善-科学大ほか
  • 運動後の起立性低血圧、水分摂取で軽減の可能性-杏林大
  • ALS、オリゴデンドロサイト異常がマウスの運動障害を惹起-名大