医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 病原性寄生虫ジアルジア、ヒトと異なるヌクレオソーム構造をもつと判明-東大ほか

病原性寄生虫ジアルジア、ヒトと異なるヌクレオソーム構造をもつと判明-東大ほか

読了時間:約 3分28秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年08月10日 AM11:00

世界中で感染者数の多いジアルジアは、ヒストンのアミノ酸配列が特徴的

(JST)は8月6日、病原性寄生虫であるジアルジア(和名:ランブル鞭毛虫)のDNA折りたたみの基盤構造を解明し、他の生物種とは異なる特徴的な部分構造を持つことを明らかにしたと発表した。この研究は、東京大学定量生命科学研究所クロマチン構造機能研究分野の佐藤祥子特任助教、滝沢由政准教授、胡桃坂仁志教授らの研究グループが、がん研究会がん研究所の立和名博昭博士、高エネルギー加速器研究機構の安達成彦博士、およびNational University of Ireland GakwayのAndrew Flaus博士らのグループとの共同研究として行ったもの。研究成果は、「Nucleic Acids Research」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

真核生物のゲノムDNAは、さまざまなタンパク質と複合体を形成し、折りたたまれて核内に収納されている。遺伝子の発現制御や、遺伝情報の次世代への継承は、折りたたまれたDNA上で起こる。このDNA折りたたみの基本単位は、ヌクレオソームと呼ばれる構造体で、4種類のヒストンタンパク質H2A、H2B、H3、H4各2分子ずつからなる円盤状の複合体にDNAが約1.7回巻きついて形成されている。ヌクレオソームは、DNAの折りたたみ構造を決める、遺伝子制御の基盤となる構造体だ。

ジアルジアは、単細胞の真核生物で、ヒトをはじめ、イヌなどのペット、ヤギなどの家畜を含む、動物の小腸に寄生する寄生虫。小腸上皮に吸着して増殖し、下痢症状を伴うジアルジア症の原因となる病原体だ。ジアルジア症は、数億人の感染者がいると推定されており、世界で最も多く見られる感染症の一つ。ジアルジアは、他の真核生物と同様に、4種類のヒストンタンパク質をもち、ヌクレオソームを基盤構造として折りたたまれたDNA上で遺伝子の発現制御を行っている。ヒストンを構成するアミノ酸配列は、生物種間でよく似ていることが知られているが、ジアルジアのヒストンタンパク質のアミノ酸配列は、ヒトをはじめとした高等真核生物とは、大きく異なっていることがわかっていた。しかし、ジアルジアのヌクレオソームがどのような構造であるのか、どのような性質をもっているのかは、今まで不明だった。

ジアルジアのヌクレオソーム構造をクライオ電子顕微鏡解析で解明、世界初

今回、研究グループは、ジアルジアのヌクレオソームの性状と立体構造を世界で初めて解明し、ヒトなどの高等真核生物とは異なる特徴的な部分構造をもつことを明らかにした。本研究では、ヒトに感染するジアルジア由来の4種類のヒストンタンパク質を、大腸菌を用いて作製して高純度に精製し、試験管の中でDNAと混ぜてヌクレオソームを再構成した。この再構成ヌクレオソームを、クライオ電子顕微鏡を用いて観察することにより、ジアルジアのヒストンタンパク質によってつくられるヌクレオソームの詳細な三次元構造を決定することに成功した。また、生化学的手法により、ジアルジアヌクレオソームの性質を調べた。

「開いた」構造を形成し、高等真核生物と異なる特徴的な表面構造

その結果、ジアルジアのヌクレオソームは、DNAの末端がヒストンから剥がれ、フレキシブルに動くことのできる「開いた」構造を形成していることが明らかになった。このことから、ジアルジアのゲノムDNAの折りたたみ構造は、DNA上で反応する酵素などがアクセスしやすい、「開いた」構造であることが考えられた。これと一致して、試験管内で再構成したポリヌクレオソームの性状解析は、ジアルジアのポリヌクレオソームがヒトのものと比べて「開いた」構造であることを示していた。

ヌクレオソーム表面には、DNA折りたたみ構造を制御するタンパク質などが結合する「足場」として働く、酸性領域が存在している。これまでに、単細胞の真核生物である出芽酵母からヒトなどの高等真核生物まで、さまざまな生物種のヌクレオソーム構造が解明されており、この酸性領域は、一部のヒストン亜種を除いて、種間を超えて共通した領域であることがわかっている。研究グループは、この酸性領域を含む周辺の領域の構造が、ジアルジアヌクレオソームでは他の生物種とは異なる、特徴的な形状であることを発見した。

そこで、ヌクレオソームの酸性領域を認識するペプチドの結合性を調べたところ、ヒトヌクレオソームの酸性領域に結合する代表的なペプチドが、ジアルジアヌクレオソームには結合できないと判明。ジアルジア特有のアミノ酸残基の挿入が、酸性領域にペプチドが近づくのを阻害している可能性が考えられた。また、ジアルジアとヒトのヌクレオソームで因子の結合性が異なっていたことから、ジアルジアのヌクレオソームに選択的に結合する相互作用因子が存在する可能性が示唆された。これに加え、今回行った生化学的解析から、ジアルジアのヌクレオソームは、不安定で壊れやすい性質をもつことが明らかになった。

医薬品開発の足がかりになると期待

研究グループは、今後の展開について次のように述べている。「本研究で明らかになったヌクレオソームの性状・構造情報は、ジアルジアに特異的に作用する薬剤を探索する基盤となるものであり、医薬品開発につながることが期待される。また、単細胞の真核生物であるジアルジアは、真核生物の進化の過程で初期に分岐し、宿主に適応して進化したと考えられている生物であるため、今回んお研究で得られたDNA折りたたみの基盤情報をもとに、ジアルジアの遺伝子制御メカニズムについて解明が進むと、ヒトの複雑な遺伝子制御機構がどのように進化してきたのか、生物の進化と多様性を議論する分野にも貢献できると考えられる。」

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 白血病関連遺伝子ASXL1変異の血液による、動脈硬化誘導メカニズム解明-東大
  • 抗がん剤ドキソルビシン心毒性、ダントロレン予防投与で改善の可能性-山口大
  • 自律神経の仕組み解明、交感神経はサブタイプごとに臓器を個別に制御-理研ほか
  • 医学部教育、情報科学技術に関する13の学修目標を具体化-名大
  • 従来よりも増殖が良好なCAR-T細胞開発、治療効果増強に期待-名大ほか