妊婦の染毛剤使用と生まれた子のアレルギー疾患発症との関連は検討されていなかった
山梨大学は8月3日、染毛剤を自宅で使用した妊婦と職業で使用した妊婦は、どちらも使用していない妊婦と比べて、生まれた子どもが3歳時に気管支喘息やアレルギー性鼻炎になりやすい傾向があることが明らかになったと発表した。この研究は、同大エコチル調査甲信ユニットセンターの山縣然太朗センター長、同大大学院総合研究部医学域 社会医学講座の小島令嗣助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Environmental Research」に掲載されている。
画像はリリースより
染毛剤は接触性皮膚炎を起こしやすく、まれに蕁麻疹やアナフィラキシー、気管支喘息を引き起こすと報告されているが、妊婦の染毛剤使用と、生まれた子どものアレルギー疾患発症との関連は今まで検討されていなかった。
そこで研究グループは今回、妊婦の染毛剤の使用状況と生まれた子どもの3歳時のアレルギー疾患発症との関連を評価した。
妊婦の染毛剤使用頻度が上がるほど、子が3歳時にアレルギー性鼻炎を発症する可能性が高い
研究では、10万4,062人の妊婦のデータおよび生まれた子どもの3歳時のデータのうち、調査への同意撤回、死産、流産、妊婦の染毛剤の使用および生まれた子どもの3歳時のアレルギー疾患のデータに欠測がある人を除いた7万7,303人を対象として解析した。
妊婦の染毛剤の使用状況は、妊娠中期の質問票から美容院、自宅、職業での使用の有無と頻度を調査。美容院と自宅での使用頻度については、「使用しなかった」「あまり使わなかった」「ときどき使った」「よく使った」から回答してもらい、職業での使用頻度については、半日以上かけて扱った回数を「いいえ」「月1~3回」「週1~6回」「毎日」から回答してもらった。生まれた子どもの3歳時のアレルギー疾患は、3歳質問票で気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーの医師による診断の有無を調査した。
上記データを使用し、妊婦の染毛剤使用と生まれた子どもの3歳時のアレルギー疾患発症の関連について、多変量ロジスティック回帰分析を用いて解析。一般的に小児のアレルギー疾患の関連因子として考えられているものには、妊娠前の母のBMI、妊娠時の母の年齢、妊婦のアレルギー疾患の既往、妊娠中の受動喫煙、世帯収入、分娩様式、早産、生まれた子どもの同胞の数、出生体重、生まれた子どもの性別、母乳栄養による育児、生まれた子どもの1歳時の保育所通園、生まれた子どものRSウイルス感染症罹患歴があり、それらを考慮した解析を行った。
その結果、妊婦の染毛剤の自宅使用と職業使用では、いずれも使用しなかった妊婦と比べて、生まれた子どもが3歳時に気管支喘息やアレルギー性鼻炎になりやすくなる傾向があることが明らかになった。一方、妊婦の染毛剤の使用による生まれた子どもの3歳時のアトピー性皮膚炎と食物アレルギー発症への影響はなかったという。また、妊婦の染毛剤の自宅使用では、使用頻度が高くなるほど、生まれた子どもが3歳時にアレルギー性鼻炎になりやすくなる傾向があり、職業使用でも同様の傾向が見られたとしている。
今後はより詳細な染毛剤の使用状況を含めた研究が必要
今回の研究成果により、妊婦の染毛剤の使用が、生まれた子どもの気管支喘息やアレルギー性鼻炎の発症につながる可能性があることが、世界で初めて明らかにされた。同研究では約8万組の妊婦及び生まれた子どもの追跡調査のデータという十分な数の対象者を解析しており、信頼性の高い結果だと言える。
一方で、染毛剤の使用状況については、質問票調査の回答によるものであり、必ずしも実際の染毛剤のばく露状況を反映しているものではない。「今後はより詳細な染毛剤の使用状況を含めた研究が望まれる」と、研究グループは述べている。
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・山梨大学 プレスリリース