腎糸球体上皮細胞スリット膜がバリア機能を維持するメカニズムは?
新潟大学は8月2日、タンパク尿発症の責任部位である腎糸球体上皮細胞スリット膜のバリア機能維持のための分子連結構造を解明し、その連結構造が崩壊しタンパク尿が発症するメカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科腎研究センター腎分子病態学分野の河内裕教授、福住好恭准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「American Journal of Pathology」に掲載されている。
画像はリリースより
慢性腎臓病の総患者数は、約1300万人と推定されており、新たな国民病と捉えられている。腎臓の主な役割は尿を作ることで、腎臓は人が生きていくために行われる代謝で生じた老廃物を血液から濾過して尿として排泄する働きをしている。その際、身体に必要な血液中のタンパク質を尿中に漏らさないように分別するための濾過装置が糸球体と呼ばれる構造物だ。タンパク尿はこの濾過装置の分別機能が低下し血液中のタンパク質が尿中に漏れ出てしまっている状態。タンパク尿は、腎臓病の濾過装置の傷害を示す最も重要な臨床所見であり、タンパク尿自体が腎臓病をさらに進行させる悪化因子であることが明らかになっている。また、タンパク尿を示す人は、脳卒中や心血管疾患の発症率が約3倍以上であると報告されている。タンパク尿は腎臓病のサインであるばかりでなく、生命予後に重大な影響を与える疾患の発症にも関連していることが明らかになっている。
研究グループは、糸球体上皮細胞の細胞と細胞の間に存在するスリット膜という構造物が、タンパク質が尿中に漏れ出ないようにしている最終バリアで、踏切の遮断機に相当する役割を果たしていることを世界に先駆けて明らかにした。このスリット膜の構造が不安定になると、タンパク質が尿中に漏れ出てしまう。研究グループはこれまでの研究で、スリット膜にはネフリン、エフリン-B1と呼ばれる分子が存在しており、これらがスリット膜のバリア構造を担う主要分子であることを明らかにしてきたが、スリット膜を安定化させるための細胞の内側の分子構造は不明だった。
細胞膜の裏打ち分子NHERF2がバリア機能維持に重要
今回の研究では、エフリン-B1の関連分子を同定するため、次世代シーケンサを用いて、エフリン-B1欠損マウス(エフリン-B1 KOマウス)で発現が変化している分子を網羅的に解析。その結果、細胞膜の裏打ち分子であるNHERF2の発現が著明に低下していることを発見した。この所見は、NHERF2がエフリン-B1の関連分子であることを示していると考えられたため、NHERF2のスリット膜での発現、機能を検討。結果、NHERF2は、エフリン-B1並びに細胞骨格関連分子であるエズリンと結合しており、エフリン-B1とエズリンを連結させていることが判明した。
タンパク尿の発症時、糸球体上皮細胞の形態の変化、細胞骨格の異常も観察されるため、スリット膜の機能維持には細胞骨格との連結が重要であると考えられてきたが、連結に関わる分子構造は解明されていなかった。今回の研究では、NHERF2がスリット膜部に発現しており、スリット膜の細胞外部を構成する分子と細胞内の細胞骨格を連結させ、スリット膜を安定させるために重要な役割を果たしていることも判明。「ネフリン-エフリン-B1-NHERF2-エズリン-アクチン細胞骨格」連結はスリット膜のバリア機能維持だけでなく、糸球体上皮細胞の形態維持に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
スリット膜刺激<NHERF2脱リン酸化<細胞骨格との連結構造が崩壊<タンパク尿
研究グループはさらに、重篤なタンパク尿を示す病態であるネフローゼ症候群の実験モデルを用いた検討を行い、病変誘導直後からNHERF2の発現が著明に低下していることを観察。加えて、培養細胞を用いた検討を行い、スリット膜が刺激を受けると、正常でリン酸化していないネフリン、エフリン-B1がリン酸化し、正常でリン酸化しているNHERF2、エズリンが脱リン酸化し、ネフリン-エフリン-B1-NHERF2-エズリン-アクチン細胞骨格の連結構造が崩壊することを示した。この分子連結構造が崩壊することにより、スリット膜のバリア機能の障害が起こり、タンパク尿が発症すると考えられるため、一連の変化においてNHERF2の脱リン酸化がこの分子連関を崩壊させるキーイベントであることが判明した。
NHERF2の脱リン酸化抑制による新規タンパク尿治療法開発に期待
研究グループは、「NHERF2の脱リン酸化抑制は、タンパク尿、ネフローゼ症候群の新規治療法開発のための戦略として重要であると考える」とし、今後、各種薬剤、化合物を用いた検討を行い、タンパク尿の新規治療薬の開発を目指すとしている。
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