体温低下時、温度感覚の特徴と運動との関係は?
筑波大学は7月30日、スポーツ中の低体温症の発生要因を解明したと発表した。この研究は、同大体育系の西保岳教授ら、新潟医療福祉大学健康科学部健康スポーツ学科の藤本知臣講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Physiology & Behavior」に掲載されている。
画像はリリースより
寒冷環境に曝されると、ヒトは暖房をつける、上着を着るといった「行動性」と、血管収縮、ふるえなどの「自律性」の2つの体温調節反応によって、深部体温を約37℃の一定に保つ。そして、行動性の体温調節反応の場合は、皮膚表面や体の深部に存在する温度センサーからの温度情報が重要だ。
今回、研究グループは、身体各部からの温度変化の情報を基に生じる温度感覚に着目。これまで、皮膚の温度感覚は、運動を行うことで鈍くなることが報告されていたが、運動が皮膚の温度感覚に及ぼす影響が深部体温の低下した低体温時にも同様に生じるかは明らかではなかった。また、皮膚の温度や深部体温の低下によって起こる全身の温度感覚の変化に、運動がどのような影響を及ぼすかについてもわかっていなかった。そこで、今回の研究では、運動中に低体温症が生じるメカニズムを解明するために、体温が低下した場合の温度感覚の特徴と運動との関係について検討した。
若年男性11人対象、体温低下時の胸部皮膚と全身の温度感覚を測定
今回の研究では、若年男性11人(24±2歳)を対象とし、体温低下時の胸部皮膚および全身の温度感覚を測定。実験では、下腹部までを18℃の冷水に入れ、座位安静を維持する条件と、半仰臥位姿勢(仰向けの状態から上半身を立ち上げた状態)を取りながら低強度の自転車運動(30-60W)を行う条件に分けて測定を行った。全身の主観的温度感覚は、0(我慢できないほど寒い)~8(我慢できないほど熱い)まで9段階(4が中立)のスケールを用いて測定した。
皮膚の温度感覚は、皮膚温冷覚閾値測定装置を用いて胸部で測定した。胸部皮膚温と同じ温度に設定した測定装置を胸部に押し当て、装置の温度を徐々に低下させていく。研究対象者は、胸部に冷たさを感じた時点でボタンを押し、その時点の装置の温度を測定する。測定開始時の胸部皮膚温と冷たさを感じた時の装置の温度との温度差を皮膚温度感覚の指標として用いた。
いずれの温度感覚測定も、陸上安静時、冷水に浸水後の深部体温が低下し始める以前、深部体温が0.5℃、1.0℃低下した時点の4時点で測定し、安静を維持する条件と低強度の運動を行う条件で比較することで運動が温度感覚に及ぼす影響を検討した。
運動自体もしくは運動で生じる生理学的変化が温度感覚の鈍化に関連する可能性
その結果、胸部の皮膚温度感覚は、いずれの深部体温レベルにおいても安静時と運動時で違いが見られなかった。一方で、全身の温度感覚は、深部体温が1.0℃低下した時点において2つの条件間の差が見られ、低強度の運動を行う条件の方が、深部体温の低下による寒さを感じにくくなっていた。
測定中の深部体温および皮膚温は2つの条件間で差がなかったことから、運動自体もしくは運動によって生じる生理学的変化(例:脳から出る運動指令や運動に伴う呼吸・循環応答など)が温度感覚の鈍化に関連している可能性が示唆された。
低強度の運動時、体の深部の温度低下により寒さを感じにくくなる
今回の研究結果は、低強度の運動時には体の深部の温度が低下したことによる寒さを感じにくくなることを示している。この深部体温低下による温度感覚の鈍化は、行動性の体温調節反応の減弱につながる。低水温の海や川でのレクリエーション活動や雪山での登山など、比較的低強度の活動中に生じる低体温症の発症を助長しているメカニズムの一つかもしれないという。
そのため、低水温の海や川での水泳や冬季のスポーツ、雪山でのハイキングなどでは、体温の低下に気付かず、低体温症に陥ってしまう可能性が考えられる。このような状況を防ぐためには、事前に体温を十分に高めておくことや、寒さを感じる前に上着を着用し体温の低下を防ぐことが重要であることが示唆される。
今後は、運動によって生じるどのような生理学的変化が温度感覚の鈍化に影響を及ぼしているのか、さらには運動が温度感覚に及ぼす影響に関して、運動強度や運動様式、男女間の差についても検討していくことで、低温環境下での運動時の安全性向上や低体温症発症予防につながると考えられる、と研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL