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局所脳内血流を操作する技術を開発、麻酔なしでの操作にマウスで成功-慶大ほか

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2021年07月30日 AM10:50

脳内の局所血流を人為的に操作できる技術は整備されていなかった

慶應義塾大学は7月28日、光照射によって脳内局所血流を自由に増加・減少できる操作技術を開発、マウスに実装した結果を発表した。この研究は、同大医学部精神・神経科学教室の阿部欣史特任助教、田中謙二准教授らと、、電気通信大学の共同研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

神経活動変化と脳内血流変動が密接に関わっていることは広く知られている。例えば、神経活動が高まることで、その神経細胞周辺の局所血流が増加する。また、脳梗塞などの不可逆的な血流遮断が神経細胞死を引き起こすことにより、脳機能の障害が生じることもわかっている。しかし、可逆的・局所的な血流変化が、神経活動を具体的にどのように変化させ、また行動をどのように変化させるのかまでは、明らかにされていなかった。その原因の一つに、脳内の局所血流を人為的に操作できる技術が整備されていなかったことが挙げられる。

開発技術をマウスに実装し、血流変化の時間経過や空間的な広がりが光強度に依存することなどを確認

そこで研究グループは今回、オプトジェネティクスを血管細胞に適用することで、脳内の任意領域で血流を増減させる技術を開発し、この技術をマウスに実装した。

まず、血管細胞にチャネルロドプシン2(ChR2)または光活性型アデニル酸シクラーゼ(PAC)というタンパク質を発現させる2種類の遺伝子改変マウスを作成した。光ファイバーを任意の脳領域に挿入し、光刺激することで、ChR2によって血流が減少し、PACによって血流が増加する。このマウスを用いて、(1)光刺激によって誘導された脳血流変化のタイムコース、(2)光刺激によって誘導された脳血流変化の空間的な広がり方を明らかにし、(3)この血流変動は可逆的であり、繰り返し誘導出来ること、(4)この血流操作技術を自由行動下(麻酔なし)のマウスに適用できること、を示した。特に、血流変化の時間経過が数十秒から分の単位で起こること、血流変化の空間的な広がりが光強度に依存することは、今後の血管オプトジェネティクス研究にとって有用な情報だ。

人為的に操作された脳血流変動が、神経活動やマウスの行動に与える影響の観察にも成功

次に、同技術を用いて、人為的に操作された脳血流変動が神経活動やマウスの行動にどのような影響を与えるのか調べ、脳血流が脳に及ぼす影響の具体例を示した。マウスの腹側線条体の血流を34±3.3%減少させると、腹側淡蒼球の神経細胞の発火が87±3.4%抑制されること、マウスの運動量を89±4.7%減少させることを明らかにした。この時、血流の減少(光刺激後0.5±0.1秒で血流が減少)→神経細胞の発火の減少(光刺激後11.4±1.4秒で発火が減少)→マウスの行動量の減少(光刺激後22.2±1.4秒で行動量が減少)の順に、連続的に誘導されていることが判明した。一方、これに対して、腹側線条体の血流を増加させても、神経細胞の発火やマウスの行動量に変化は見られなかったという。

神経・精神疾患の血流からの理解や血流をターゲットにした治療法開発にも期待

これまでにも血流をオプトジェネティクスで操作する報告はあったが、いずれもマウスが自由に動けない状況(麻酔下または覚醒下であったとしても頭を固定されている状態)での報告だった。また、血流変化がどの程度の広がりをもつのか、つまり、どの程度限局しているのかの報告はなかった。そのため、血流操作と行動変容の対応付けに神経基盤を組み入れることが困難だった。

今回の研究では、操作された脳血流のタイムコースと空間的な広がり方を提示した上で、神経活動と行動の評価を実施。脳内の任意領域で血流を増減させる技術の開発に留まらず、自由行動下における適用拡大と、光強度に依存した血流変化の空間的な広がりが確認できることが提示された。その結果、局所脳血流と、その血流支配下にある神経活動と、行動との3者の相互関係を明らかにする方法論として活用できることを提示された。

さまざまな神経疾患や精神疾患において、脳血流の増減が報告されている。それらの疾患で見出される脳血流の増減をモデル動物で模倣することが可能になれば、その脳血流変化と神経活動変容や行動変容と因果関係を明らかにする研究が可能になる。「神経・精神疾患の病態生理を、脳血流変化から理解することが期待される。また、血流をターゲットにした治療法を開発することも期待される」と、研究グループは述べている。

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