オリンピック後に開催国民のスポーツ実践や身体活動量は高まっているのか
東京大学は7月26日、過去のオリンピック開催国における国民のスポーツ実践や身体活動に与えた影響を検証し、オリンピックの開催前後で国民・住民のスポーツ実践率や身体活動量に変化がなかったことが明らかになったと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の鎌田真光講師、シドニー大学のエイドリアン・ボウマン教授を中心とする国際共同研究グループによるもの。研究成果は、「The Lancet」のオリンピック開催年に発刊される身体活動特集号(Physical Activity Series)に掲載されている。
画像はリリースより
オリンピックの開催・招致にあたっては、大会後に残すポジティブな影響(レガシー)として、スポーツ、教育、都市、環境面等、さまざまな側面に言及がなされている。その一つに、スポーツの祭典として、国民における身体活動とスポーツの実践を促進し、健康増進に寄与するといったことが含まれる。しかし、こうしたレガシーが実際に実現されたかについてはこれまで十分に検証されていなかった。
オーストラリア、日本、米国、ブラジル、英国、アイルランドの研究者から構成される国際共同研究グループは始めに、過去約30年分・15大会のオリンピック開催地立候補ファイルや大会関連の公式文書を調査。その結果、2012年ロンドン大会以降に、国民や開催都市住民のスポーツ実践や身体活動を促進することが、期待されるレガシーとして明言されるようになったことがわかった。
1996年アトランタ大会以降のデータを解析、ほとんどの国・都市において変化なし
実際にオリンピックの開催前後で国民のスポーツ実践率や身体活動量が高まったかを検証するために、各開催国・都市における全国(都市)調査データを2次利用して分析した。大会前後で計3時点以上のデータが得られた計8大会について、「スポーツ実践率」「身体活動実践率」(運動習慣を持つ者の割合やガイドライン推奨量を満たす者の割合)「歩数」のいずれかの指標について調べた。8大会とは、1996年アトランタ大会、1998年長野大会、2000年シドニー大会、2002年ソルトレークシティ大会、2008年北京大会、2010年バンクーバー大会、2012年ロンドン大会、2016年リオデジャネイロ大会である。
その結果、ほとんどの国・都市において、オリンピックの開催前後で国民・住民のスポーツ実践率や身体活動量が変化していなかったことがわかった。例外として、1998年長野大会前後のスポーツ実践率と、2008年北京大会前後の身体活動実践率にのみ、増加の傾向が見られた。ただし、長野大会(冬季)では、スキー等のウインター・スポーツに限定すると増加の傾向は見られなかったため、スポーツ全般における実践率の増加は、大会とは別の要因の影響が大きいと考えられるという。また、北京大会は2000年、2005年、2014年の3時点のみのデータに基づいており、検証データが不十分であった可能性がある。
2012年ロンドン大会後、国民の運動に対する「関心」については高まった可能性
別の角度からの分析として、2012年ロンドン大会を対象として、Googleトレンドを用いてイギリス国内における人々のインターネット検索の傾向を分析した。その結果、「オリンピック(Olympic)」に関する検索が大会前から大会期間中に増加し、その後、1年ほどで急激に減少する一方、「運動(exercise)」に関する検索も大会前から大会後にかけて増え、その増加はその後数年間持続していたことがわかった。これらの結果から、国民の運動に対する「関心」については高まった可能性があると考えられた。
意識だけでなく、国民のスポーツ実践や身体活動の普及といった「行動」の変容につながるレガシーを実現するためには、大会前から大会期間中、そして大会後に至るまで、大会組織委員会、国際オリンピック委員会(IOC)、開催国のオリンピック委員会(JOC等)、国・地域の行政機関、そしてスポンサー企業などが一体となって戦略的に取り組む必要があると考えられる。「こうした普及の取り組みに加えて、今後は、国民のスポーツや身体活動の実践を継続的に評価し、レガシーの検証を積極的に進めていく必要もある」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東京大学大学院医学系研究科 広報・プレスリリース