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増殖能の高い心筋細胞、ヒトiPS細胞を用いて回収に成功-CiRAほか

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2021年07月28日 PM12:30

転写因子HAND1とHAND2、マウスでは心臓形成に重要だがヒトでは?

京都大学iPS細胞研究所()は7月27日、トリプルレポーターiPS細胞株を作製し、心筋細胞への分化誘導過程の初期においてHAND1陽性細胞は心筋前駆細胞を示すこと、後期では、HAND1陽性細胞は高い増殖能を示し、、HAND2、LEF1が細胞増殖を制御していることを示したと発表した。この研究は、CiRA増殖分化機構研究部門の大久保周子研究員、吉田善紀准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Stem Cell Reports」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

ヒトのiPS細胞から作製される心筋細胞は、、創薬研究や発生学への応用が期待されている。iPS細胞から心筋細胞への分化誘導の過程は、発生を模倣しているといわれているが、詳しいメカニズムはわかっていない。

マウスの発生過程において、HAND1とHAND2という転写因子は心臓の形成に重要な役割を果たすことが知られている。ヒトの発生過程でも、HAND1やHAND2に異常がある場合は、心臓の病気になることがわかっており、ヒトにおいても重要であることが示唆されている。また、ヒトの場合、HAND1は左心室に強く発現し、HAND2は心房筋に強く発現することがわかっている。しかし、ヒトの発生過程を、胚を使って詳しく調べることは倫理的にも難しいため、iPS細胞を用いた研究による詳細なメカニズムの解明が期待されている。近年、iPS細胞を利用して心室筋、心房筋へとつくり分けられるようになっているが、HAND1やHAND2の発現動態やその働きについては詳しく調べられていない。

そこで研究グループは、ゲノム編集などの技術によってHAND1, HAND2, MYH6の発現量に応じてmCherry, EGFP, iRFP670という蛍光タンパク質の蛍光強度を示すトリプルレポーターiPS細胞を作製した。MYH6は心筋細胞で陽性となる遺伝子。このトリプルレポーター細胞株のシステムを用いてヒトiPS細胞から心筋細胞への分化誘導過程におけるHAND1、HAND2の発現パターンと役割の解明を目指して研究を行った。

トリプルレポーターiPS細胞を作り、分化誘導初期に2集団・後期に4集団を確認

研究グループは、心筋細胞の分化誘導過程におけるHAND1とHAND2の発現動態を観察するために、まずiPS細胞にCRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用いて、HAND1とHAND2の遺伝子座にmCherryとEGFP(ともに蛍光タンパク質)の遺伝子配列を導入し、ダブルレポーター細胞株を作製。さらに、piggyBacベクターを用いてMYH6遺伝子のプロモーターと、3つ目の蛍光タンパク質であるiRFP670の遺伝子配列を細胞に導入し、トリプルレポーターiPS細胞株を作製した。このトリプルレポーターiPS細胞は、HAND1の発現をmCherry、HAND2の発現をEGFP、MYH6の発現をiRFP670で示す。

このトリプルレポーターiPS細胞を心筋細胞へと分化誘導させ、フローサイトメーターで観察。すると、心筋細胞へとなる前の分化誘導5日目においてmCherry陽性細胞と陰性細胞の二つの集団があり、心筋細胞へと分化した後の20日目では、mCherry陰性EGFP陰性、mCherry陽性EGFP陰性、mCherry陰性EGFP陽性、mCherry陽性EGFP陽性の4つの集団があることがわかった。

分化誘導初期のHAND1陽性細胞は心筋前駆細胞

次に研究グループは、5日目のmCherry陽性細胞とmCherry陰性細胞の特徴を調べるために、それぞれの細胞を回収し、心筋細胞への運命決定に重要な転写因子の発現を調べた。その結果、mCherry陽性細胞でこれらの遺伝子が高く発現していることがわかった。また、心筋前駆細胞のマーカーであるPDGFRA、CD13(ともに細胞表面タンパク質)に対して免疫染色を行ったところ、mCherryの発現とこれらの因子の発現が相関しており、HAND1陽性細胞は心筋前駆細胞であることがわかった。

後期のHAND1陽性細胞は増殖能の高い心筋細胞、CD105が回収マーカーに

細胞増殖を検出する試薬EdUを用いて、mCherry陽性細胞とmCherry陰性細胞のEdU陽性率を調べたところ、mCherry陽性細胞では陽性率が高いことから、mCherry陽性細胞は増殖能の高い心筋細胞であることが判明した。そこで、増殖能の高い心筋細胞を回収するため、mCherry陽性細胞で高い発現を示す細胞表面にあるタンパク質の遺伝子を探索し、CD105に着目。心筋細胞からCD105陽性細胞と陰性細胞を分取したところ、CD105陽性細胞はCD105陰性細胞に比べてEdU陽性率が高いことがわかった。以上より、抗CD105抗体を用いて増殖能の高い心筋細胞を回収することができるようになった。

マウスの心臓の発生過程においてHAND1やHAND2は重要な働きをしていることはわかっていたが、ヒトの発生や、ヒトのiPS細胞から心筋細胞への分化誘導において、HAND1やHAND2の発現動態や役割は詳細に調べられていなかった。今回の研究では、iPS細胞をゲノム編集し、HAND1、HAND2、MYH6のトリプルレポーターiPS細胞株を作製することで、その発現動態を観察した。その結果、分化誘導初期にはHAND1陽性細胞は心筋前駆細胞であること、また分化誘導後期では、HAND1陽性細胞は増殖能の高い心筋細胞であることが明らかとなった。さらに、CD105が増殖能力の高い心筋細胞を回収するマーカーとなることも発見された。「これらの発見は、ヒトの発生学への寄与や、再生医療において効率的な移植治療、創薬研究の効率化への効果が期待される」と、研究グループは述べている。

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