脳梗塞発症前から身体機能に障害有の患者対象、血管内治療と内科治療のみの治療成績を比較
国立循環器病研究センターは7月26日、大規模登録研究のデータベースをもとに、発症前から身体機能に障害を有する脳梗塞患者に対する血管内治療が、内科治療のみと比較して脳梗塞後の障害を軽減させる可能性を示したと発表した。この研究は、同センターの田中寛大脳卒中集中治療科医師、吉本武史脳神経内科医師、豊田一則副院長らを含めた国内多施設共同の研究チーム(RESCUE-Japan Registry 2;主任研究者:兵庫医科大学脳神経外科の吉村紳一氏、神戸市立医療センター中央市民病院脳神経外科の坂井信幸氏)の研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of the American Heart Association」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
脳梗塞は、脳に栄養を送る血管が閉塞することでまひや言語障害などの神経症状が現れる病気。特に、脳主幹動脈が急に閉塞すると重症の脳梗塞を起こす。カテーテルを用いた血管内治療は、脳主幹動脈の閉塞による脳梗塞の障害を軽減する上で有効な治療法だ。この血管内治療は、脳梗塞の発症前から身体機能に障害がある場合であっても、有効かつ安全に実施できる可能性が過去に報告されていたが、血管内治療を実施しない場合(内科治療のみの場合)と比べた検証はいまだ実施されていなかった。
そのため今回は、脳梗塞の発症前から身体機能に障害があった患者を対象として、血管内治療を受けた場合と受けなかった場合(内科治療のみの場合)の治療成績を比較した。
症候性頭蓋内出血の合併、血管内治療実施群(4.0%)と内科治療群(4.3%)で有意な差なし
今回の対象は、日本における脳主幹動脈急性閉塞症の治療実態とその成績を明らかにすることを目的とする多施設前向き研究である、RESCUE-Japan Registry 2に登録された内頚動脈あるいは中大脳動脈水平部閉塞症の患者のうち、脳梗塞発症前の身体機能として仕事や活動に制限がある、介助が必要、あるいは歩行ができなかった患者339人。対象患者を血管内治療実施群(175人)と内科治療(薬物療法)のみを実施した群(164人)の2群に分類し、両群における脳梗塞発症3か月後の転帰(障害の程度)や、症候性頭蓋内出血(神経症状の悪化を伴う頭蓋内の出血合併症)の割合を比較した。
その結果、主要評価項目である、「3か月後に脳梗塞発症前と同程度の身体機能レベルまで回復する患者の割合」は、血管内治療実施群(28.0%)の方が、内科治療のみを実施した群(10.9%)よりも有意に多い結果だった。両群間の患者背景(年齢・脳梗塞発症前の身体機能障害・併存疾患・脳梗塞の重症度・脳梗塞の大きさなど)を統計学的に調整した解析でも、血管内治療は内科治療と比較して、転帰良好に関連していたという。懸念される症候性頭蓋内出血の合併は、血管内治療実施群(4.0%)と内科治療群(4.3%)で有意な差がなかったとしている。
患者背景を合わせた前向き臨床研究による検証が必要に
今後、患者背景を合わせた前向きの臨床研究による検証が必要だが、発症前から身体機能に障害があったとしても治療適応を十分に検討すれば、脳主幹動脈閉塞による急性期脳梗塞に対する血管内治療は、内科治療のみと比べて良好な転帰につながる治療になり得ると期待される。
実際の臨床現場では、脳梗塞の発症前から身体機能に障害がある患者に対して、血管内治療を実施するかしないか、といった重要な判断がしばしば求められる。研究グループは、今回の研究結果は、血管内治療の実施を検討する際の参考となる重要な報告と言える、と述べている。
なお、同研究は観察研究であり、結果の解釈の際にはバイアス(両群間の患者背景の偏りや、治療方針を決定する際の各医師の判断の違い)への注意が必要だとしている。
▼関連リンク
・国立循環器病研究センター プレスリリース