コレステロール合成にとって重要な「小胞体」に着目
宮崎大学は7月26日、老化や脳神経疾患などで起こる脳の萎縮に関係する新しいメカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部附属病院脳神経内科の杉山崇史助教、同大医学部機能生化学分野の西頭英起教授、村尾直哉助教、東京大学大学院薬学系研究科の一條秀憲教授らと、東邦大学、富山大学、東北大学、理化学研究所の研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」に掲載されている。
画像はリリースより
脳の正常な発達とその維持は、脳機能を発揮する上でとても重要だ。神経細胞は、外部からの信号を受け取る樹状突起の伸長や、信号の伝達を担うシナプスの形成を経て発達する。老化した脳や病態脳では、この神経突起やシナプス形成が抑制されるとともに、脳萎縮が観察される。また、このような脳で共通して認められるメカニズムが、細胞小器官の一つである「小胞体」の品質悪化である。
小胞体は、細胞が曝されたストレスを感知し、それに対処することで細胞のストレス状態を緩和する能力(小胞体ストレス応答)をもっている。これまでに、小胞体の膜上のタンパク質「Derlin」は、小胞体の品質管理に必須な分子であることが報告されている。また、小胞体は、コレステロール合成に関わる膜型転写因子SREBP-2の活性化の最初のステップを担う場所であり、コレステロール合成にとって重要な細胞小器官としても知られている。
脳萎縮の原因として脳内コレステロール合成不全を発見、マウスモデルで
研究では、脳内でのDerlin遺伝子欠損マウスを用いた解析により、小脳でSREBP-2の活性化が阻害されていること、それにより小脳内のコレステロールの総量が減少していることを突き止めた。さらに、Derlinを欠損させた培養神経細胞で見られる樹状突起の短縮は、人為的なSREBP-2の活性化により抑制できることを発見した。
これらの結果は、小胞体膜上でDerlinが、SREBP-2の活性化を制御してコレステロール合成を誘導し、神経突起伸長を促すことで、脳の正常な発達と機能維持に重要な役割を果たしていることを示すものだ。さらに研究グループは、今回の発見のユニークな点として、Derlinの機能不全による小胞体ストレスそのものは、脳萎縮の直接の原因ではなかったという点を挙げている。
コレステロール代謝不全を伴う神経疾患の新たな治療標的として期待
今回の研究成果は、DerlinによるSREPB-2活性制御を介したコレステロール合成が、脳神経細胞の重要な役割を担い、その破綻が脳萎縮につながるという、新たな分子メカニズムを見出した重要な知見だと言える。
「今後の研究の発展により、Derlin–SREBP-2経路が、コレステロール代謝不全を伴う神経疾患や発達障害に対して、その病態を改善するための新たな治療標的となることが期待される」と、研究グループは述べている。
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