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日本人の胆道がん、約半数はゲノム情報に適合する治療薬が存在すると判明-理研ほか

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2021年07月27日 AM11:00

胆道がんは5年生存率がわずか27%と極めて難治性

(理研)は7月26日、「」のさまざまなゲノムデータを集約・解析し、約50%の症例についてゲノム異常に適合する治療薬がある可能性を示したと発表した。この研究は、理研生命医科学研究センターがんゲノム研究チームの大川裕貴研修生、中川英刀チームリーダー、北海道大学大学院医学研究院消化器外科学教室Ⅱの平野聡教授、中村透講師らの国際共同研究グループによるもの。研究成果は、「Oncotarget」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

胆道は、肝臓で産出された胆汁を十二指腸へ輸送する管のことで、途中に胆汁を濃縮し蓄える胆嚢がある。それらの上皮細胞から発生した悪性腫瘍が「胆道がん」であり、発生部位によって、肝内胆管がん、肝門部胆管がん、遠位胆管がん、そして胆嚢がんの4つに分類される。これらのがんでは、発症リスクや悪性度、予後などの生物学的特性が異なり、治療法も違う。

胆道がんは世界的にみるとまれだが、日本やアジアにおいては発症頻度が高く、日本では、2017年には約2万2,500人が発症し、約1万8,000人が死亡している、6番目に死亡数の多いがん腫。長期生存が唯一期待できる治療法は外科的切除だが、胆道がんは転移や浸潤能が非常に高く、周囲に重要な血管が多数存在する複雑な部位に発生するため、多くの場合根治的手術は困難だ。日本肝胆膵外科学会の報告では、胆道がんの切除率は約70~95%とされているが、これは大規模病院に限られたデータのため、実際にはこの数値よりも大幅に低いと想定される。外科切除不能の症例や再発時に有効な化学療法や分子標的治療は少なく、5年生存率はわずか27%と極めて難治性のがんだ。

ゲノム異常が多く発見されている胆道がん、適合する薬の有効性は?

がんは「ゲノムの病気」と呼ばれ、近年ゲノム変異を標的とした分子標的治療薬が多数開発されている。2019年から日本においても、がん遺伝子パネル検査などで変異を同定し、その変異に適合した治療薬を投与する「がんゲノム医療」が始まった。胆道がんにおいては、これまでKRAS遺伝子やTP53遺伝子の変異などさまざまなゲノム異常が発見されているが、多くのゲノム異常については、それに適合する治療薬がなかった。

最近、胆道がんのIDH1遺伝子の変異に対してIDH1阻害剤を、FGFR2融合遺伝子に対してFGFR阻害剤を投与する臨床試験が国内外で行われており、薬剤治療が認可されている国もある。また、免疫チェックポイント阻害剤を用いた治療がさまざまながん腫に対して行われているが、胆道がんについては一部を除き、その有効性は証明されていない。

219例をゲノム解析、変異と適合する治療薬を探索

中川英刀チームリーダーらはこれまで、主に北海道大学病院で手術した219例の胆道がんの切除標本から取り出したDNAやRNAを用いて、ゲノム解析研究を行ってきた。今回、それらのゲノム解析データ(全ゲノムシークエンス解析、エクソーム解析、ターゲットシークエンス解析、RNAシークエンス解析)を再解析し、胆道がんのゲノム異常データを集約した。解析症例の内訳は、肝内胆管がん66例、肝門部胆管がん63例、遠位胆管がん49例、胆嚢がんが41例で、半数以上がステージ3以上の進行がん。

統合的ゲノム解析から、630個の(タンパク質をコードする)遺伝子の小さな変異(SNV/indel)、1,027個のコピー数異常、51個の融合遺伝子の情報が得られた。これらのゲノム異常データを、韓国サムソン病院におけるがんゲノム医療のデータを集約した、アジア人最大規模のがんゲノム知識データベースと照合し、変異と適合する治療薬を探索した。

47.9%で何らかのゲノム情報と適合する治療薬の存在が判明

その結果、74症例の22個の変異遺伝子について、適合する治療薬の同定に成功した。最も多かったのは、PTEN遺伝子のコピー数異常(欠失)に対するPI3K阻害剤(16例)、CDKNA2遺伝子の小さな変異またはコピー数異常(欠失)に対するCDK阻害剤(15例)だった。また多くの症例で、PIK3CA遺伝子の小さな変異またはコピー数異常(増幅)に対するPI3K阻害剤、ERBB2遺伝子の小さな変異またはコピー数異常(増幅)に対するHER2阻害剤の適合も見られた。さらに、FGFR1/2/3遺伝子の融合(構造異常)またはコピー数異常(増幅)が15例(肝内胆管がん9例、肝門部胆管がん1例、胆嚢がん3例、遠位胆管がん2例)で発見され、最近、FGFR2融合遺伝子陽性の肝内胆管がんで使用が承認されたFGFR阻害剤での治療が期待できる。

予後解析においては、PTEN遺伝子とCDKNA2遺伝子のゲノム異常がある胆道がんの予後は悪いことが示されたことから、PI3K阻害剤またはCDK阻害剤による治療が期待できる。

次に、免疫チェックポイント阻害剤の反応性について、胆道がんのRNAシークエンス解析のデータから、PD-1/L1遺伝子の発現とがん組織内のT細胞関連遺伝子の発現を解析。その結果、PD-1/L1遺伝子の発現が高く、かつT細胞関連遺伝子の発現も高い群(Tリンパ球ががん組織内に存在する群)に35例が分類された。これらの胆道がんの症例には、免疫チェックポイント阻害剤の効果が期待できると考えられる。

以上の結果を合わせると、47.9%(105例/219例)の胆道がんの症例について、何らかのゲノム情報と適合する治療薬が存在することが明らかになった。

胆道がんゲノム医療の進展に期待

胆道がんの予後は極めて悪く、現在使用できる治療薬は非常に限られている。今回の研究により、約50%の症例で胆道がんのゲノム変異に適合する治療薬が見つかった。「今後、胆道がんの検査には、がん遺伝子パネル検査や他のゲノム検査が積極的に導入され、変異に適合する分子標的薬または免疫チェックポイント阻害剤を用いたゲノム医療や臨床試験が進展するものと期待できる」と、研究グループは述べている。

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