小児の静脈血栓塞栓症(VTE)について慈泉会相澤病院の安河内聰氏(エコーセンター長、循環器内科顧問)が7月13日に講演した。安河内氏は、経口抗凝固剤「イグザレルト」(一般名:リバーロキサバン)に小児への適応が追加されたことを受け、「採血に伴う痛みが減ることは子どもにとって大きな福音だ」と期待を示した。
講演は、製薬会社のバイエル薬品が同薬の新剤形「ドライシロップ小児用」を7月12日に発売したことを踏まえ開催したセミナーで行われた。
見逃されている症例の数を考慮すれば小児VTEは珍しくない
安河内氏は小児VTEについて、「発生頻度は年間で小児1000例あたり0.01~0.05件1)~4)と数は多くないが、これらは症状を起こし発見されたもの」と指摘。「見逃されている症例は10倍以上あると推定され、決して珍しいものではない」と問題視した。
安河内聰氏(バイエル薬品提供)
安河内氏によると小児VTEの原因は「新生児/乳児早期に心臓手術などで中心静脈カテーテルを挿入すること」「体格が小さく、細い血管に太いカテーテルを挿入し、血流の障害を起こしやすいこと」「先天性の血栓素因が多いこと」など。小児VTEを巡ってはこれまで、小児用の薬剤がない、適した小児薬用量の設定がない、小児での薬物療法のモニタリング方法が不明といったことから、成人患者のマネジメントで得られたデータをもとに臨床実施指針が作成されていた。
イグザレルトの小児への適応追加と新剤形発売を踏まえ安河内氏は、「従来の治療で行っていた定期的な採血によるモニタリングが必要ではなく、外来受診の頻度や患者と医療者の採血の負担が軽減する」と期待を表明。「採血に伴う痛みが減ることは子どもにとって大きな福音だ」と強調した。
適応追加の根拠となったのは、国際共同第Ⅲ相臨床試験「EINSTEIN Jr.」。非盲検無作為化試験で、小児VTE患者500人を対象に、リバーロキサバンの有効性・安全性を従来の標準療法と比較した。
主要有効性評価項目である「症候性VTEの再発」は、イグザレルト群(n=335)で再発率が1.2%だったのに対し、比較対照療法群(n=165)で3.0%、ハザード比は0.40(95%信頼区間:0.11-1.41)だった。主要安全性評価項目の「重大な出血または重大ではないが臨床的に問題となる出血」の発症率は、イグザレルト群が3.0%、比較対照療法群が1.9%で、ハザード比は1.58(95%信頼区間:0.51-6.27)だった。重大な出血は、比較対照療法群で1.2%起きた一方で、イグザレルト群では認められなかった。
小児対象の臨床試験は「実施が難しく、環境整備が必要」
EINSTEIN Jr.には日本からも6例が参加した。セミナーで安河内氏は、「小児の国際共同治験では日本からの症例組み入れは非常に厳しく、割り当て症例数(5例)を超えた症例登録ができたのは初めて」と評価。バイエル社と日本小児循環器学会、全国37施設が加盟している小児治験ネットワークとの連携が成功要因の1つだとした。
一般的に小児を対象とした臨床試験の実施が難しい理由について安河内氏は、①対象症例数が少ない、②開発投資に見合うリターンが少なく、企業利益が生み出せない、③成長・発達による解剖学的、生理学的、薬理学的変化を反映する用法・用量の設定や剤形の開発が求められる――と列挙。②は具体的に、使用用量に応じて薬価が設定されるため小児では薬価が低くなることや、成長による変化をみる必要があり市販後調査(PMS)費用が莫大になることなどがあるとした。その上で、「成人を対象に新薬の承認を取得する際、欧米では小児の適応も開発が義務付けられているが、日本でそのような制度はない」と指摘。小児臨床試験実施の普及に向けて、「欧米のような法制化はなかなか難しいので、学会や医薬品医療機器総合機構(PMDA)と企業が連携するなど、臨床試験を進めやすい環境の構築が必要だ」と課題を述べた。
2)C H van Ommen, et al: J Pediatr. 2001;139(5):676-81.
3)Paul D Stein, et al: J Pediatr. 2004;145(4):563-5.
4)ISTH Steering Committee for World Thrombosis Day: Thromb Res. 2014;134(5):931-8.
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・バイエル薬品株式会社 プレスリリース