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老化で起こる病的な炎症反応に、TET遺伝子の欠損が関連する可能性-千葉大ほか

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2021年07月26日 AM11:30

老化によるTET2遺伝子変異は白血病や血管の炎症と関連、免疫異常との関係は?

千葉大学は7月21日、TET遺伝子の欠損が免疫細胞に及ぼす影響について研究した結果、TET欠損はゲノムの化学構造に異常をきたし、炎症を増悪させる効果があることがわかったと発表した。この研究は、同大グローバルプロミネント研究基幹の小野寺淳准教授、中山俊憲学長らと、米国ラホヤ免疫研究所(LJI)とカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のAnjana Rao教授との共同研究によるもの。研究成果は、「Genome Biology」で公開されている。


画像はリリースより

免疫の働きによって起こる炎症反応には、病的なものと生体防御に重要なものの二種類がある。病的な炎症はアレルギーや自己免疫疾患などと関連し、生体防御に重要な炎症反応はウイルスや細菌などの感染症に対処するために不可欠だ。老化により病的な炎症反応のリスクは高まり、生体防御のための炎症反応の機能は低下する。例えば、新型コロナウイルス感染症での高齢者死亡率の高さの原因の一つは、加齢によって炎症反応の微調整が効かなくなることだと考えられているが、この現象の詳細な機構については不明な点が多く、早期の解明が望まれている。

一方、ヒトでは老化によりさまざまな遺伝子変異が蓄積している。このうちTET2遺伝子の変異は、白血病の原因(発症は年間数%程度)になることが知られているが、血管の炎症とも関連し、心筋梗塞や狭心症などのリスクが1.4倍以上高くなることがわかっている。研究グループは今回、マウス実験モデルを用いて、TET遺伝子と老化による免疫異常の関係の一端を明らかにするため実験を行った。

DNAの脱メチル化は、細胞の種類によって違うルートで進行

DNAメチル化は、生体内に多く存在し重要な役割を果たすシトシン塩基に見られる化学修飾で、遺伝子発現をOFFにすることが知られている。DNAメチル化が解除されると遺伝子発現がONになり、これを脱メチル化という。TET遺伝子から作られるTET酵素は、シトシンのメチル基を酸化することで、間接的に脱メチル化を誘導する。

TET酵素によって誘導される脱メチル化には、酸化されたメチル化シトシン(5hmC)がDNA複製に伴って希釈される受動的なものと、酸化がさらに進んだメチル化DNAが修復されることで起こる能動的なものの二種類がある。

研究では、免疫細胞で起こる脱メチル化の大部分は前者の受動的な機構に依存することがわかった。ただ、後者の能動的な機構も寄与は小さいながらも確かに働いていることもわかった。これらの結果から、受動的および能動的脱メチル化は対等なものでなく、細胞の種類によって厳密に使い分けられることが明らかとなり、基礎生物学上重要な知見が得られた。

DNAメチル化同士の距離が近いほど相互作用が大きく、連動して脱メチル化

シトシンのメチル基の酸化が進むと、アルデヒドやカルボン酸と呼ばれる化学構造ができる。これらの化学構造を検出する最新の技術が最近発表された(Pyridine Borane:PB法)。この技術を開発した英国Oxford大学チームとの共同研究により、免疫細胞では世界で初めて上記の化学構造を検出することに成功した。この検出が可能になったことで、採取の難しい少数細胞検体での遺伝子解析が期待される。

また、研究グループは、ヘルパーT細胞をモデルとして、独自の解析アルゴリズムを開発することで、「近くにあるDNAメチル化同士がどのように影響を及ぼし合うか」を数値化することに成功。メチル化同士の距離が近いほど、相互作用が大きく、連動して脱メチル化されていくことがわかった。今後はより長いDNAを解析することで、距離の遠いメチル化同士の相互作用を解析し、複雑な遺伝子制御機構解明への応用が期待できる。

TET酵素が5hmC集積を介して炎症性サイトカインの発現をOFFにする機能を併せ持つ可能性

ヒトではTET2遺伝子変異と疾患との関連が報告されている。研究グループは、2だけでなく、1とTET3遺伝子も欠損させた「TET完全欠損マウス」を使って実験を行った。2のみの欠損では疾患発症に数か月程かかるが、本モデルでは、細胞レベルでの老化を非常に短期間で誘導できる。

実験の結果、TET完全欠損マウス由来のマクロファージにおいて、IL-1βやIL-6などの炎症性サイトカイン遺伝子の発現が顕著に上昇することが明らかとなった。このことから、これらのサイトカインで誘導される血管炎症の抑制にはTETの酵素活性が重要であることが示唆された。また、次世代シークエンスを使った解析で、TET欠損のない正常マクロファージにおける、TET酵素により酸化されたメチル化シトシン(5hmC)のゲノム上の位置を網羅的に特定した。

特筆すべきは、炎症性サイトカインの遺伝子の近くに、5hmCが蓄積することが明らかになったことである。TET酵素の本来の働きは、5hmCを介して遺伝子発現をONにすることであるが、この実験結果は、TET酵素が5hmC集積を介して炎症性サイトカイン遺伝子発現をOFFにする機能を併せ持つ可能性を示唆し、本研究における新たな発見となった。

5hmCがどのように炎症と関わっているのかについて今後さらに研究を進めることで、血管炎症抑制の鍵となるメカニズムの解明が期待される。

TET酵素の機能補完による血管炎症の治療法開発に期待

今回の研究により、TET酵素がDNAのシトシンメチル基の酸化を介して炎症性マクロファージを制御することがわかった。今後は、TET酵素の機能を補うことで、炎症性マクロファージの働きを抑え、血管炎症を改善する治療法への応用が期待される。

「本研究で用いた化学反応による検出方法(PB法)やDNAメチル化の解析アルゴリズムは、将来的にがん細胞の診断や分類、免疫細胞の異常の検出などさまざまな応用が期待でき、医学の発展に大いに寄与することが見込まれる」と、研究グループは述べている。

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