2019年度に発足した日病薬学術小委員会で医師や薬剤師が2年間かけて討議し、パブリックコメントの募集を経て策定した。日本循環器学会や日本心不全学会の協力を得たほか、関連論文で示されたエビデンスに基づいて記述するなど、信頼性の高い内容になっている。
薬剤師の業務に役立つように、心不全の症状に対する薬の使い方や考え方について詳しく記述したことが大きな特徴。心不全患者に出現する呼吸困難、倦怠感、食欲不振、抑うつ・不安・不眠、せん妄、疼痛の各症状に用いる薬の特徴や注意事項、モニタリング項目、薬剤師の関わり方、Q&Aを記載。エビデンスの有無を意識しつつ、現場の薬剤師のニーズに応えられるように可能な限り情報を網羅し、参考文献も明示した。
例えば呼吸困難の項目では「終末期心不全の治療抵抗性の呼吸困難に対してモルヒネの有効性や安全性が報告されている」「呼吸困難に対するモルヒネの投与は疼痛コントロールに比べ少量で有効性が報告されている」などと記述。薬剤の選択や投与方法、投与量、投与時の注意点に加え、チーム医療の一員として薬剤師が取るべき行動を具体的に提示している。
各症状別の対応のほかにも項目を設けた。心不全緩和ケアの現状と方向性、多職種チーム医療の必要性、薬剤師の役割、地域連携の必要性、終末期における心不全薬の考え方などを解説している。
今回、合わせて「事例集」も作成した。2病院の施設紹介に加えて、策定に関わった薬剤師が持ち寄った11事例を記載。自施設で取り組みを進める上で参考になるように、臨床現場でよく遭遇する具体的な事例を示した。
近年、心不全緩和ケアの重要性が指摘されている。18年には、日本循環器学会と日本心不全学会の急性・慢性心不全診療ガイドラインに緩和ケアの記述が加わり、同年の診療報酬改定で緩和ケアの対象疾患に末期心不全が追加された。こうした背景から、現場で試行錯誤している薬剤師に役立つ指針を策定するため、19年度に学術小委員会が発足した。
19年度から2年間、学術小委員会活動を担当した高井靖氏(三重ハートセンター薬局長)は、「現場の薬剤師が知りたい薬のことについて踏み込んで調べ、エビデンスも意識して、可能な限り多くの情報を盛り込んだ。薬剤師が何をするべきかという業務指針の意味も持たせた」と言及。
「緩和ケアといえば癌で、心不全への対応はこれまであまり注目されてこなかった。まずは薬剤師に関心をもってもらいたい」と話している。