エコチル調査から、両親の医療用物質の取り扱いと乳児期の子のがん発生の関連を解析
九州大学は7月20日、子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)の約10万人のデータを使用して、乳児期の小児がんと両親が職業で取り扱った医療用物質との関連について解析し、妊婦の放射線の取り扱いと出生児の乳児期の神経芽腫の発症に関連がある可能性を示したことを発表した。この研究は、同大小児科の古賀友紀准教授(エコチル調査九州大学サブユニットセンター)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Pediatric Research」に掲載されている。
小児がんはまれで、命を脅かす可能性のある疾患である。はっきりとした原因はわかっていないが、これまでの研究から、いろいろな環境因子の関与が指摘されている。さまざまな職業の中で、医療従事者は、放射線や抗がん剤のような有害な影響を与えうる物質を業務として取り扱うことがある。これまでに、妊婦が職業で取り扱った医療用物質と、出生した子どもの乳児期の腫瘍の関連をみた報告はない。
エコチル調査は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、2010年度より全国で10万組の親子を対象として開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査だ。今回の研究では、両親が職業で取り扱った医療用物質と出生した子どもの1歳までのがんの発生に関連があるか否かを調査。2018年3月に確定した、約10万組の妊婦と出生した子どもおよび約5万人の父親のデータのうち、解析対象は、性別・出生体重・両親の医療用物質の取り扱い・子どものがんに関するデータがそろっている9万2,619人の子どもとした。
妊娠中に放射線を扱った母親の子、神経芽腫の発生率は10万人当たり140.1人
約9万2,000人の妊婦のうち、妊娠期間中に、放射線を2,142人(2.3%)、抗がん剤を1,298人(1.4%)、麻酔薬を1,015人(1.1%)が、月1回以上取り扱っていた。生まれた子ども約9万2,000人のうち、1歳までに15人の神経芽腫、8人の白血病、3人の脳腫瘍が発生していた。放射線を取り扱った2,142人の妊婦から生まれた子どものうち、3人が神経芽腫を発症。その発生率は10万人当たり140.1人で、取り扱っていない妊婦から生まれた子どもの発症率(10万人当たり13.3人)よりも高い傾向であることがわかった。
その3人の子どもの母親のうち、2人は抗がん剤と麻酔薬も取り扱っていた。上記の3種類の医療用物質を取り扱った妊婦から出生した子どもで、白血病や脳腫瘍を発症した子どもはいなかった。出生体重などを考慮に入れた多変量解析では、放射線を取り扱った母親の子どもは、神経芽腫のリスクが10.68(95%信頼区間は2.98-38.27)倍と算出された。
一方、父親の情報は母親の約半数の4万5,000人で、そのうち放射線を1,446人(3.2%)、抗がん剤を289人(0.6%)、麻酔薬を328人(0.7%)が、月1回以上取り扱っていた。父親のデータがある子ども約4万5,000人のうち、7人の神経芽腫、3人の白血病、3人の脳腫瘍が発生していたが、それらの医療用物質を取り扱った父親はいなかった。
動物実験でのメカニズム研究や、国際的な小児がん登録を含めた詳細な検討が必要
この研究は、妊婦の医療用物質の取り扱いと子どもの神経芽腫に関連がある可能性を示した最初の報告だ。ただし、この研究では、質問票から得られた情報を使用したため取り扱いの様式・時間・量およびがんの分類などがわからないこと、神経芽腫を発症した児の症例数が少ないこと、父親の情報は母親の約半数であることなどの制約があることを考慮しなければならない。
「今後、子どもの年齢が上がってくるにつれて、より多くの小児がんが発生してくることが予測され、それぞれの医療用物質の関与が明らかになると考えられる。今回の結果はあくまでも可能性を示したもので、結果が本当かどうかを見極めるためには、動物実験でのメカニズムについての研究や国際的な小児がん登録を含めた詳細な検討が必要だ」と、研究グループは述べている。
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・九州大学 NEWS 研究成果