長期化するパンデミックの中で、妊婦の不安やストレスはどのように変化するのか?
東京大学は7月16日、新型コロナウイルス感染症のパンデミック下のインターネット上の投稿の内容を分析した結果、妊婦は流行初期には感染についての不安を抱えていた一方、自粛期間が長期化するにつれて気分障害、周囲からのサポートについての不安が増えていったことが明らかになったと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の奥原剛准教授、調律子大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、「JMIR Pediatrics and Parenting」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
パンデミックでは、公衆衛生の専門家は弱い立場に置かれた人々へ情報を伝える必要がある。中でも妊婦は、流行初期には妊婦や胎児への影響が不明なこと、治療が制限されること、繰り返し病院に行く必要があることなどから弱い立場に置かれている。妊娠中の強い不安やストレスは母親や児の健康に影響を与えることから、妊婦の心理的なケアも必要だ。新型コロナウイルスのパンデミックでは、うつや不安の症状が強い妊婦が30%にも上っているという報告もある。
感染症流行の各段階で人々がどのようなことを不安に思い、期待しているのかを知ることが、有効なコミュニケーションと支援を行う上で求められる。新型コロナウイルス感染症の流行期間に妊婦は、感染への不安の他にも出産や育児への準備不足やサポートしてくれる人々との関係性など、妊婦特有の不安やストレスを抱えていることが報告されてきた。しかし、長期化するパンデミックの中で、それらの不安やストレスがどのように変化していたのかはわかっていなかった。
流行初期は感染の不安が多く、長期化するにつれて気分障害や周囲からのサポートに関する不安が増加
研究グループは、2020年1月1日~5月25日(第1回緊急事態宣言の解除宣言日)に、日本最大のQ&Aサイト「Yahoo!知恵袋」に投稿されたすべての質問を対象に、「コロナ 妊婦」「コロナ 妊娠」「コロナ 出産」「コロナ 分娩」「コロナ お産」をキーワードとして検索した。妊婦自身が投稿している質問のみを解析対象とし、質問文のテキストからカテゴリーと下位コードを抽出した。各カテゴリーとコードの質問数を週単位で集計し、国内の動きと照合した。
検索キーワードでヒットした4,200件の質問のうち、2,040件の質問が妊婦による投稿であり、重複やパンデミックにおける不安とは無関係なものを除外した1,000件の質問を分析対象とした。感染流行の第1波と第2波では「自分自身の感染への不安」や「家族や友人の感染への不安」「自分自身の外出への不安」といった感染に対する不安が第1ピークと第2ピークを形成していた。その後、感染に対する不安についての質問は減少し、「周囲からのサポートについての不安」や「気分障害についての不安」が増加して第3のピークを形成していた。「人間関係のストレス」は全期間で頻出していた。また、「家族や友人の感染への不安」や「人間関係のストレス」の多くは「夫が飲み会に行く」など、感染リスクを伴う望ましくない行動によるものであった。
これらの結果から、妊婦は、新型コロナウイルス感染症の流行初期には感染についての不安やストレスを表出していたが、パンデミックが長期化するにつれて、気分障害や周囲からのサポートの不足についての不安やストレスの表出が増えていくことがわかった。また、人間関係のストレスは全期間で表出されており、妊婦の周囲の人々に対するコミュニケーションも求められることが明らかになったとしている。
長期化するパンデミックでは妊婦への支援内容の変化が必要
今回の研究成果により、新型コロナウイルス感染症のパンデミック下の日本の妊婦の不安の内容が初めて明らかにされた。「パンデミックが長期化するにつれて妊婦の不安の内容は変化するため、必要な支援の内容も変化させる必要があること、また、妊婦の周囲にいる人々に向けてのコミュニケーションの重要性も示唆された」と、研究グループは述べている。