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がん転移・抗がん剤耐性メカニズムの解明に有用なイメージング手法を確立-東大

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2021年07月19日 AM11:15

Fucciシステムに着目し、がん転移における細胞周期を観察

東京大学は7月8日、組織透明化手法と細胞周期を観察することができる蛍光プローブ (フーチ)を組み合わせることで、マウス臓器内のがん転移を臓器のまま、3次元かつ1細胞解像度を有して、細胞周期を観察する系を立ち上げたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の宮園浩平教授、高橋恵生助教(研究当時)、久保田晋平研究員(研究当時)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Science」に掲載されている。


画像はリリースより

がんの基礎研究におけるイメージング技術は近年急速に発達し、マウスモデルでのがん転移を早期から高解像度で観察することが可能となってきている。研究グループは2017年に、がん研究における新たなイメージング技術として「組織透明化手法」を導入し、マウスを用いたさまざまながん転移モデルでの応用例を報告してきた。それまで、組織透明化手法は主に神経科学分野で開発・応用されてきた技術だが、がん研究に応用することでマウス臓器深部のがん転移を観察できるようになった。さらに、同手法は薄切することなく、マウスの臓器のまま、1細胞解像度を有して3次元でがん転移を捉えることができることから、近年がん研究において、非常に注目されている。同研究グループはこれまで、同手法を用いて、がん転移そのものを捉えることに注力してきた。

研究グループは今回、がん転移メカニズムをより詳細に解析するため、捉えられたがん転移の特徴も同時に捉えることを目標として研究を行った。近年、がん微小環境における炎症反応やがん転移形質を捉えることができる種々のレポーター開発が盛んだ。それら数多くのレポーターの中から、高橋恵生助教と宮園浩平教授らは、2008年に理化学研究所の宮脇敦史博士、阪上-沢野朝子博士らのグループにより開発されたFucciシステムに着目し、がん転移における細胞周期の観察を試みた。

がん転移の形や大きさのみならず、細胞周期のパターンが臓器間で異なる可能性

細胞周期を観察することができるFucciレポーターシステムでは、増殖期であるS/G2/M期の細胞が緑色蛍光タンパク(mAGやmVenusなど)を、休止期であるG1期の細胞が赤色蛍光タンパク(mKO2やmCherryなど)を示す。

研究グループは初めに、ヒト肺がん細胞A549とマウス乳がん細胞4T1に安定的にFucciを発現する細胞株を樹立した。これらの細胞は、増殖抑制作用を持つサイトカインTGF-βで刺激されると、増殖期である緑色を示すがん細胞が減少し、G1期である赤色を示すがん細胞が増加する。

次に、これら樹立した細胞株を用いて、さまざまなマウスモデルでのがん転移を組織透明化手法によって観察した。組織透明化手法にはさまざまな種類があるが、今回はCUBICを使用した。CUBIC試薬を用いることにより、担がんマウスより取り出した肺や脳、骨などの臓器を高度に透明化することが可能となる。これら高度に透明化された臓器をライトシート顕微鏡によって観察し、1細胞レベルの高解像度画像を取得。さらに、そこで得られた画像を再構築することで、3次元画像を得ることができるという。

同手法を用いて、A549細胞と4T1細胞を移植した担がんマウスのがん転移を観察したところ、観察ではA549細胞による脳転移巣はあまり大きくならないのに対し、骨転移では転移巣が大きくなっていることなどが判明。また、がん転移の形や大きさのみならず、細胞周期のパターンが臓器間で異なることが示唆された。さらに、同一臓器内のがん転移巣の間でもFucciのパターンが同一でないことから、これらが抗がん剤耐性に寄与していることが推測された。

がん転移の臓器指向性や抗がん剤耐性メカニズム解析に今後活用されることに期待

続けて、抗がん剤の4T1細胞に対する効果を評価した。評価した複数種類の抗がん剤の中でも、低濃度の5-フルオロウラシル(5-FU)の処理では、緑色、すなわち、S/G2/M期で細胞周期が停止することが培養細胞を用いた実験からわかったという。さらに、マウスの尾静脈注射による肺転移モデルにおいて5-FUを腹腔内投与しその効果を検討した結果、5-FUを投与したマウスでの肺転移コロニーが緑色を示すことがわかり、動物実験でもS/G2/M期にて細胞周期が停止していることが示唆された。

「今回の研究は、がん転移や抗がん剤耐性などのメカニズム解析に大変有用であると考えている」と、研究グループは述べている。

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