歯周病そのものが咀嚼能力の低下に影響するのか
国立循環器病研究センターは7月16日、大阪府吹田市民が参加する「吹田研究」の解析結果から、歯周病が進行すると、歯の数が変わらなくても咀嚼能力が低下することが示されたと明らかにした。この研究は、同センター健診部の小久保喜弘特任部長、新潟大学大学院医歯学総合研究科の小野高裕教授、大阪大学大学院歯学研究科の池邉一典教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Clinical Periodontology」にオンライン公開されている。
画像はリリースより
食物を細かく噛む能力、咀嚼能力が低下すると、摂取可能食品の選択肢が狭まり、栄養摂取に悪影響を及ぼす。その結果、全身的な健康状態の悪化を引き起こし、メタボリックシンドロームや動脈硬化性疾患の発症へとつながることが、これまでの吹田研究の成果により多く報告されている。咀嚼能力に関連する因子を特定し、咀嚼能力の低下への予防策を講じることは、全身の健康を維持する上でも重要だと考えられる。
歯周病は、歯茎の腫れや疼痛、また歯を支える骨の破壊を引き起こす慢性炎症性疾患である。歯周病が進行すると歯を失い、咬み合わせが悪くなることで、咀嚼能力が低下する。しかし、歯の数や咬み合わせが維持されていても、歯周病そのものが咀嚼能力の低下に影響するかどうかについて示した報告はほとんどなく、エビデンスが求められていた。
50歳以上663人を対象に解析、歯周病が進行した人で咀嚼能力が大きく低下
吹田研究の参加者である50~79歳の都市部一般住民のうち、初回歯科検診、および2回目歯科検診(初回から4年以上経過)の両方を受診した人の中から、調査期間中に歯の数が変わっていない663人(男性267人、女性396人)を対象に解析を行った。咀嚼能力の測定には、専用に開発されたグミゼリーを30回咀嚼して増えた表面積を算出する方法を用いた。
その結果、調査期間中に歯周病が進行した「悪化群」は、維持(維持群)または改善した人(改善群)と比較して、咀嚼能力が大きく低下することが明らかになり、咀嚼能力を維持する上で、歯の数や咬み合わせを維持するだけでなく、歯茎の状態を健康に保つことが重要であることが示された。
研究成果の意義は、歯周病により歯が減少し咬み合わせを失うことだけでなく、歯周病の進行そのものが咀嚼能力に影響を及ぼすことを明らかにしたことである。歯の数や咬み合わせを維持するだけでなく、歯茎の状態を健康に保つことが咀嚼能力の低下を予防し、動脈硬化性疾患予防にもつながると考えられる。
「高齢化率が世界で一番高い日本で、健康寿命の延伸のためにも、臓器の終末像である心不全や認知症の予防のために、咀嚼能力の維持が重要であるエビデンスを出していくことを今後の課題として検討している」と、研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース