X連鎖型のまれな先天性免疫異常症、幼少期に重篤なIBDを合併
東京医科歯科大学は7月14日、XIAP欠損症に合併した炎症性腸疾患では、腸内細菌叢の異常が発症に関与している可能性を示し、この異常が造血細胞移植で改善することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科小児地域成育医療学講座の金兼弘和寄附講座教授、発生発達病態学分野の小野真太郎大学院生、および森尾友宏教授の研究グループと、慶應義塾大学微生物免疫学教室の本田賢也教授の研究グループならびに全国の諸施設との共同研究によるもの。研究成果は、「Journal of Allergy and Clinical Immunology In Practice」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
X-linked inhibitor of apoptosis protein(XIAP)欠損症はまれな先天性免疫異常症であり、血球貪食性リンパ組織球症(HLH)の反復や難治性の炎症性腸疾患(IBD)を特徴とする。XIAP欠損症の唯一の根治治療法は同種造血細胞移植(HCT)だが、国際的な移植成績は芳しくなく、改善が急がれている。また、XIAP欠損症に合併したIBDは幼少期に発症し、症状も重篤である一方、病態は依然として不明な点が多く、有効な治療法が限られているといった問題がある。
国内でHCTが行われたXIAP欠損症26症例、生存率84%と諸外国より好成績
今回、研究グループは、日本におけるXIAP欠損症患者の移植成績、移植前後でのIBDの病勢変化、および腸内細菌叢の組成と多様性を解析した。2020年3月末までにXIAP欠損症26症例でHCTが行われ、生存率は84%と諸外国からの報告に比べて非常に優れた成績だった。解析の結果、HLAミスマッチの移植である場合と、移植時に活動性HLHを合併する場合で、移植後の生存率が有意に低下することが明らかになった。
日本でXIAP欠損症に対して行われたHCTの情報を全国から集積し、移植前後で腸管内視鏡所見、病理所見が大幅に改善していることをほぼすべての症例で確認できた。また、小児のIBDの病勢を評価する小児潰瘍性大腸炎活動指数(PUCAI score、Pediatric Ulcerative Colitis Activity Index score)は移植後で著明に改善していることが判明した。
腸内細菌叢の異常が発症や治療抵抗性に関与の可能性、この異常はHCTで改善
さらに研究グループは、XIAP欠損症に合併したIBDがHCT後に改善した理由を探るために、前後で腸内細菌叢の変化を調べた。HCT前の患者群では、Ruminococcus属とLachnospiraceae属が減少し、HCT後には健康な家族と同じレベルまで増加することがわかった。これらの細菌属は、腸管上皮細胞の炭素源となる短鎖脂肪酸を産生し、腸管の恒常性維持に貢献していると考えられている。またLachnospiraceae属は、クローン病における抗TNF-α治療の抵抗性に関係していることが近年明らかになっている。今回の研究では、この属が減少することと、XIAP欠損症に合併したIBDが抗TNF-α治療を行っても難治性で薬剤耐性を示すこととの関連性が示唆された。HCT前の患者群では、同居している健常家族群と比較して腸管細菌叢の主成分分析が大きく離れていたが、HCT後には健常家族群に大幅に近づいている、すなわち正常化していることがわかった。
先天性免疫異常症に合併した難治性IBDの病態解明や新規治療法の開発に期待
XIAP欠損症に対するHCTは、国際的な研究では望ましい成績が得られていなかった。しかし今回の研究で、日本におけるXIAP欠損症に対するHCTの成績が優れていることが明らかになった。また、XIAP欠損症に合併したIBDがHCTにより完治することが、多数の症例で初めて示された。さらにXIAP欠損症関連IBDでは、腸内細菌叢の異常が発症や治療抵抗性に関与している可能性が示され、この異常がHCTで改善することが明らかになった。今回の研究成果について、研究グループは、「XIAP欠損症のみならず先天性免疫異常症に合併したIBDの病態解明や新規治療方法の開発に大きく貢献することが期待される」と、述べている。
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