先行研究でオステオクリンによる軟骨形成や骨伸長の促進を確認
国立循環器病研究センターは7月14日、骨膜から分泌される「オステオクリン」(Osteocrin, OSTN)は荷重負荷により発現が増加し、骨の形成を促進することを明らかにしたと発表した。この研究は、同センター研究所・細胞生物学部の高野晴子上級研究員、望月直樹部長(研究所長)らの研究グループによるもの。研究成果は「Cell Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
運動や生活活動に伴う荷重の負荷が骨や骨格筋を強くし、骨・筋肉の萎縮を予防することが知られており、身体活動を維持する重要な因子となっている。しかし、その詳細な機構の多くは未解明である。骨は、骨を作る「骨芽細胞」と、骨を溶かす「破骨細胞」の骨代謝バランスによって維持され、荷重負荷の要求に応じて骨が作られていくと考えられている。このバランス調節に対して荷重負荷がどのように関わるのかも十分に解明されていない。
研究グループは、ペプチドホルモンであるナトリウム利尿ペプチド(NP)ファミリー分子の生理作用を促進する因子OSTNが、ゼブラフィッシュの増殖心筋細胞から分泌されることを見出し、着目してきた。これまでに、OSTNがNPの作用を強めて軟骨形成や骨伸長を促進することや、血圧制御を介して鬱血性心不全を改善することを明らかにしている。
OSTNは荷重負荷がかかる部位で、骨膜に特異的に発現、動物実験で
まず、OSTNの発現部位を詳細に明らかにすることを目的に、OSTN遺伝子座にLacZ遺伝子を挿入し、さらに組織透明化法を組み合わせてマウスを作製し、マウスの全身でOSTNの発現部位を解析した。その結果、OSTNは脛骨や尺骨、橈骨等の遠位の骨で、しかも、荷重負荷がかかる部位で非常に強く発現していることがわかった。骨組織の切片を作製して詳細に調べると、OSTNはこれらの遠位骨の骨膜に特異的に発現していた。さらに、荷重がOSTNの発現を調節する機構を、尾部懸垂モデルを用いて検討。すると、OSTNの発現は、荷重が少なくなると抑制されることがわかった。つまり、OSTNは荷重の刺激により発現が上昇し、骨膜から分泌されることが明らかになった。
次に、OSTNの役割を探るためにOSTNの遺伝子欠損(OSTN-KO)マウスを作製したところ、OSTN-KOマウスでは骨量が減少していた。また、荷重を一定期間少なくすると骨量が減少し、その後、再度荷重を与えると骨量が回復することが知られているが、OSTN-KOマウスでは、この骨量の回復が抑制されることがわかった。このことからOSTNは荷重の刺激に応じて骨を作るホルモンであることが判明した。
荷重刺激<OSTN発現上昇<CNPの作用強化<骨形成促進
最後に、OSTNがどのようにして骨の形成を促進するかを明らかにするために、骨膜から細胞を採取して調べた。骨膜は未分化な細胞を含む組織であり、骨膜の細胞は適切な分化培養条件下で骨芽細胞へと成熟する。OSTNはナトリウム利尿ペプチドファミリーの一つであるC型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)を促進する因子であることから、始めにCNPの作用を検討した。
その結果、CNPは骨膜の未分化な細胞を骨芽細胞へと成熟させる因子であることがわかった。また、CNPとOSTNを一緒に加えるとCNPの作用が強まり、骨芽細胞への成熟がさらに促進された。以上のことから、OSTNは荷重の刺激で発現が上昇し、CNPの作用を強めて骨の形成を促進する因子であることが明らかになった。
寝たきりや長期臥床による骨形成阻害の予防に役立つ可能性
ベッドでの長期臥床により骨形成が阻害されることが知られている一方、重篤な循環器疾患(心不全や脳卒中)では安静臥床が必要な場合もある。骨の維持のためには、今回の成果が生かされる可能性(寝たきりやフレイルの予防や治療に役立つ可能性)がある。
「OSTNは荷重の刺激を骨の形成へとつなぐ骨膜ホルモンであることが明らかになった。しかし、分子メカニズムとして骨膜の細胞が荷重の刺激をどのように感じるか、CNPがどのように骨芽細胞への成熟を促進するかは不明であり、今後の解析が期待される」と、研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース