2020年4月以降、アルコール消費支出は1年前と比べて増加
京都大学は7月14日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行がアルコール関連肝疾患および膵炎の入院に与えた影響を検証したと発表した。この研究は、同大医学研究科の今中雄一教授、國澤進准教授、糸島尚博士課程生らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
アルコールの乱用は公衆衛生上の大きな懸念であり、世界中で毎年約300万人が死亡している。COVID-19の流行により、社会的距離の維持や都市のロックダウン、経済的な危機によるストレスからアルコールの消費増加が懸念され、世界保健機関などから有害なアルコールの消費について警告が発せられている。実際、米国や英国ではアルコールの販売量の増加や家庭におけるアルコール消費量が増加したと報告されており、日本でも政府の調査によると、2020年4月以降の家計のアルコール消費支出は、1年前に比べて増加していた。
アルコールの乱用による代表的な疾患として、肝硬変をはじめとする肝疾患や膵炎があるが、今回のCOVID-19の流行がアルコール関連の肝疾患や膵炎の入院に与える影響はまだよくわかっていないのが現状だ。
流行前と比べてアルコール関連の入院は約1.2倍に、アルコール性肝硬変が最多
研究グループは今回、Quality Indicator/Improvement Project(QIP)のデータベースを用いて、入院日が2018年7月1日~2020年6月30日のアルコール関連の肝疾患および膵炎の月別の1,000入院あたりの入院率を調査した。
その結果、COVID-19の流行時の2020年4~6月の入院率は流行前の期間(2018年7月~2020年3月)と比較して、約1.2倍になっていた。入院した原因疾患の中では、アルコール性肝硬変が最多だった。
入院率は男性が高いが、増加の程度は女性の方が大きい傾向
アルコールが身体へ与える影響は性別によって差があるという生物学的な特性が知られていることに加え、海外において、COVID-19の流行下での飲酒量も性別により差があるという報告があるため、性別でも解析を行った。入院患者数は男性の方が多いため、入院率自体は男性が高くなっているが、2020年4~6月の入院率を前年同月で比較すると、男性では4月 1.1倍、5月 1.2倍、6月 1.2倍、女性では4月 1.4倍、5月 1.9倍、6月 2.0倍と、女性の方が増加の程度が大きい傾向が認められた。
アルコール消費の増加は経済的な危機による精神的ストレスとも関連していることが報告されており、今回のCOVID-19の流行下において、女性がより経済的な影響を受けている可能性も示唆されている。今回の研究結果は、元来の生物学的な違いに加え、性別による経済的な影響の違いを反映している可能性があるという。
自粛期間中の飲酒には注意が必要
COVID-19流行によるアルコール消費増加と肝疾患をはじめとするアルコール関連疾患の増加については世界的に懸念されており、注目されている。今回は個々のアルコールの消費量についてはデータベースに情報がないため、個人のアルコール消費量の変化とアルコール関連の肝疾患や、膵炎の入院との関連といった直接的な関連を調べる研究が今後も望まれる。
「COVID-19の流行が収束しない中、アルコール関連肝疾患・膵炎の増加が続く可能性があり、自粛期間中の飲酒には注意が必要と考えられる」と、研究グループは述べている。
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