前立腺がんにおけるLAT3とARとの関連性に着目
千葉大学は7月12日、アミノ酸を運ぶ役割を持つタンパク質(アミノ酸トランスポーター)であるLAT3が、前立腺がんの進行に密接に関与するアンドロゲン受容体(以下、AR)によって発現量を制御され、がんの進行や転移に関わることを解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院泌尿器科学の市川智彦教授、坂本信一講師、梨井隼菱医員、分子腫瘍学の金田篤志教授、腫瘍病理学の池原譲教授、薬理学の安西尚彦教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Science」にオンライン公開されている。
画像はリリースより
男性の罹患率第1位のがんである前立腺がんは、近年では欧米だけでなく日本でも患者数が増加している。前立腺がんの進行には男性ホルモン(アンドロゲン)が密接に関与しており、がん細胞内でアンドロゲンがARと結合することで、がんの進行を引き起こしている。
研究グループは、これまで、がん細胞におけるアミノ酸トランスポーターの機能解析と創薬に関する研究を行ってきた。アミノ酸トランスポーターの一つであるLAT3は、前立腺がんに多く発現していることが知られていたが、その機能は長らく不明だった。そこで今回、前立腺がんにおけるLAT3の機能、特にARとの関連に着目して研究を行った。
AR がLAT3の発現を制御、LAT3の発現の高い患者は術後の再発が有意に多い
研究ではまず、「LAT3の発現がARによって制御される」ことを確認した。前立腺がん細胞に対し、アンドロゲンの一種であるジヒドロテストステロンを投与すると、LAT3の発現が上昇。また、この効果はARの阻害剤であるビカルタミドの投与によって抑制されたという。
次に、「細胞周期に関連するLAT3の新たな標的分子を同定」した。網羅的RNAシークエンス解析により、LAT3の下流シグナルとして「Separase」という細胞周期に関連する新たな標的分子を同定。この標的分子を通じて、LAT3が細胞の増殖をコントロールしていることが明らかになった。
最後に、「前立腺がん患者におけるLAT3の発現と術後再発との関連を解明」した。千葉大学医学部附属病院における前立腺全摘標本を用いて免疫染色を行い、LAT3の染色の強さと臨床データとの関連を調べたところ、LAT3の発現の高い患者は、術後の再発が有意に多いということがわかったという。
LAT3が前立腺がんの新しい腫瘍マーカーや治療標的となる可能性
今回の研究成果により、ARにアミノ酸トランスポーターLAT3が制御され、前立腺がんの細胞増殖に関与することが判明し、前立腺がんの進行メカニズムの一端が明らかになった。これにより、LAT3が前立腺がんの新しい腫瘍マーカーや治療の標的となる可能性が示された。
研究グループはこれまでに、がん細胞の増殖を促進させる他のアミノ酸トランスポーターの機能も解明してきた。「これらの研究により、多様・複雑ながんの病態に対して、最適な治療方針や薬剤の開発が進むことが期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・千葉大学 ニュースリリース