敗血症での「血小板減少の程度」が持つ病的意義のエビデンスは未確立だった
名古屋大学は7月8日、敗血症において相対的な血小板の減少の程度が播種性血管内凝固症候群(Disseminated Intravascular Coagulation:DIC)の病態を定量的に示していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部附属病院救急科の春日井大介病院助教、後藤縁病院講師、小牧市民病院の尾崎将之救急集中治療科部長、名古屋大学大学院医学系研究科生物統計学分野の松井茂之教授、救急・集中治療医学分野の松田直之教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
敗血症は、感染症に対する過剰な生体反応により体の重要な臓器の機能不全を起こす病態。集中治療室(ICU)で経験される主な病態の一つで、世界中で数多くの人がこの病気で亡くなっている。一方、この病態を治療すべくこれまでにたくさんの臨床試験が実施されてきたが、有効な治療開発につながったものは限られており、画期的な治療法がないのが現状だ。
血小板減少症は敗血症の死亡率に関係することがこれまでに知られていた。敗血症では重要な臓器に微小な血栓を作るDICにより臓器の障害が生じ、血小板の減少をきたすと考えられている。このことから、血小板減少症は敗血症による凝固障害の診断基準の一つとして国際的に用いられている。一方、血小板の減少の程度(どれくらいのスピードで減るのか)がDICの病態を反映すると推測されていたが、このことを示すエビデンスが確立していないことから日本国内の「急性期DIC診断基準」を除き、国際的には血小板の減少の程度は診断基準として考慮されてこなかった。これまでの診断基準を用いて、DICに対するいくつかの治療薬の臨床試験が実施されてきたが、特効薬と言える十分なエビデンスが確立した治療はない。
血小板の減少の程度は絶対値と無関係に敗血症の死亡・出血・血栓リスクと相関
今回、研究グループは、米国の335のICUにおける約20万人のデータを用いて、敗血症における「血小板の減少の程度」が持つ病的意義を検討した。その結果、「血小板の減少の程度」は最終的な血小板の絶対値とは無関係に敗血症の死亡リスクと相関することが明らかになり、減少の程度が強まるほど死亡リスクが増加していくことが示された。さらに、血小板が11%以上減少した場合、死亡リスク・出血リスクだけでなく血栓症のリスクが高まることが世界で初めてわかった。
今回の研究により、血小板の減少率が敗血症の凝固障害の病態をより正確に示すことが明らかになった。「この結果は、敗血症性凝固障害に対する精密治療の開発や予防的な治療の開発に役立つと考えられる」と、研究グループは述べている。
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