医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 唾液ポリアミン類をわずか1分で測定できる技術を開発、大腸がんを高精度に判別-慶大

唾液ポリアミン類をわずか1分で測定できる技術を開発、大腸がんを高精度に判別-慶大

読了時間:約 2分57秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年07月12日 AM11:15

既存の方法では1検体の測定に10分以上必要

慶應義塾大学は7月5日、キャピラリー電気泳動-質量分析計()を用いた多検体同時測定技術を開発し、唾液中のがんマーカーであるポリアミン類の測定を1分で実現できたことを明らかにした。この研究は、同大先端生命科学研究所(以下「慶大先端生命研」)の曽我朋義教授、五十嵐香織技術員らの研究グループによるもの。研究成果は「Journal of Chromatography A」電子版に掲載されている。


画像はリリースより

50年前から、大腸がんなどのがん患者の尿から高濃度のポリアミン類が検出されることが知られている。2010年、慶大先端生命研とUCLAのグループは、膵臓がん、乳がん、口腔がん患者でも唾液中のポリアミン類の濃度が上昇することを発見。東京医科大学の杉本昌弘教授らは唾液でがんを早期発見するビジネスを主軸としたベンチャー企業「株式会社サリバテック」を創業した。

ポリアミン類などの低分子化合物は、抗体の作成が困難であることから、一般に臨床検査会社で迅速診断法として使われているELISA法が使えない。また、低分子マーカーの測定には、液体クロマトグラフィー-質量分析計(LC-MS)法やキャピラリー電気泳動-質量分析計(CE-MS)法などの分離分析法が用いられていたが、1検体の測定に10分以上必要とするため、測定コストがかかるといった問題があった。この問題を解決するため、研究グループは、ポリアミンをはじめとする低分子化合物の迅速測定技術の開発に取り組んだ。

多検体同時分析が可能なCE-MS法を開発

研究グループは、CE-MSで分離に用いるキャピラリーに一度に唾液40検体を順次注入後、一度に電圧をかけて、40検体を同時に測定する技術を開発した。その測定原理を具体的に示す。まず、キャピラリーに唾液検体と泳動バッファ(BGE)を交互に順次注入した後、電圧を印加すると、唾液中のポリアミン類などのイオンは質量分析計(MS)方向に移動するが、唾液検体に印加される電圧(E)は高いため速く移動する。しかし、BGEに印加される電圧は低いため移動速度は遅くなり、その結果、ポリアミン類などのイオンは各検体とBGEの境界でスタックされる。その後、検体とBGEの液が混合すると印加電圧は一定になるため、一定の移動速度でポリアミン類などはMSに向かい、それぞれの化合物が持つ固有の質量で検出される。

開発した方法を用いることで、唾液40検体を40分で測定することが可能になった。しかし、開発にあたり、いくつもの化合物が同時に質量分析計(MS)に導入されるため、各化合物のイオン化が抑制されてしまうことや、ポリアミン以外の化合物がポリアミンと同じ質量で検出されるなどの問題があった。そこで、ポリアミンの同位体を唾液検体に添加し、同位体を用いてイオン化抑制を補正し、質量分析計(MS)の設定を工夫したところ、ポリアミンのみが検出できるようになったという。

既存の大腸がん腫瘍マーカーの精度より高い精度を示す

東京医科大で採取された健常者20例、大腸がん患者20例、計40検体を用いて、開発した測定法により唾液中ポリアミン測定を実施した。測定結果は、どのポリアミンも健常者に比べて大腸がん患者で高値を示し、40検体を40分(サンプル注入20分、測定20分)で分析可能だった。

続いて、健常者57例、大腸良性ポリープ患者26例、大腸がん患者276例から採取した唾液中のポリアミン類を測定した。この測定では、健常者や大腸良性ポリープ患者に比べ、大腸がん患者で3種類のポリアミンとも濃度が有意に高くなっていることが判明した。また、N1-アセチルスペルミンを用いると、大腸がん患者を83.4%の精度で非がん患者と区別することができた。この精度は、既存の大腸がんの血液マーカーであるCEA、CA19-9、NSEなど(精度56~77%)より高い精度で大腸がんを診断できることを示している。

ポリアミン以外の低分子マーカーの臨床応用も実現する測定技術

今回の研究で、唾液中のポリアミン類を1検体1分で測定できる迅速分析技術が開発され、大腸がんの診断精度も極めて高いことが明らかになった。現在、サリバテックでは、唾液中のポリアミン測定によって大腸がんや膵臓がんなどのいくつかのがんの可能性を同時に予測するビジネスを行っているが、この手法を技術移転することで、短時間に大規模の唾液測定が可能となり、大幅なコスト削減が期待される。

「今回開発した多検体同時測定CE-MS法は、低分子マーカーを臨床応用する際の障壁であった測定時間、コストを大幅に削減する。本法は、唾液のポリアミン測定による大腸がんの診断の大規模・迅速分析を実現した。また、ポリアミン以外の低分子マーカーの臨床応用も実現する測定技術であると考えている」と、曽我教授は述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 血液中アンフィレグリンが心房細動の機能的バイオマーカーとなる可能性-神戸大ほか
  • 腎臓の過剰ろ過、加齢を考慮して判断する新たな数式を定義-大阪公立大
  • 超希少難治性疾患のHGPS、核膜修復の遅延をロナファルニブが改善-科学大ほか
  • 運動後の起立性低血圧、水分摂取で軽減の可能性-杏林大
  • ALS、オリゴデンドロサイト異常がマウスの運動障害を惹起-名大