日本人の前立腺がん患者も特異な腸内フローラを持っているのか?
近畿大学は7月7日、日本人における高悪性度の前立腺がんの特徴となる腸内フローラを発見し、解析に成功したと発表した。この研究は、同大医学部泌尿器科学教室の藤田和利准教授らの研究グループと、大阪大学大学院医学系研究科との共同研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Science」オンライン版に掲載されている。
前立腺がんは、国内の男性で最も多いがんとなっている。食生活と密接に関連するがんでもあり、日本における近年の罹患率上昇は、欧米型食生活の普及が一因であると言われている。一方、腸内フローラやその代謝産物は、大腸がんなどのさまざまな疾患に関与することが最近報告されており、新たな治療ターゲットとして脚光を浴びている。
これまでに、前立腺がん患者は特異な腸内フローラを持つことが米国で報告されており、腸内フローラと前立腺がんの関連が示唆されてきた。また、研究グループは、前立腺がんモデルマウスに高脂肪食を投与して肥満になると、前立腺がんの増殖が促進されることを報告している。最近の研究では、高脂肪食マウスに抗生物質を投与して腸内フローラを変化させると、前立腺がんの増殖が抑制されることを発見した。
腸内フローラは人種、地域、食生活により大きく異なることが知られており、外国人と日本人では、大きく異なる可能性がある。そのため、日本人における検証が必要とされてきた。
短鎖脂肪酸を産生する腸内細菌が前立腺がんに影響を及ぼしている可能性
研究グループは今回、大阪に住む152人の前立腺がん疑いの日本人から大便を採取し、腸内細菌の遺伝子を解析して、高悪性度の前立腺がんに特徴的な腸内フローラの検出を行った。
最初に114人の便を用いて調べたところ、リケネラ、アリスティペス、ラクノスピラなどの細菌が、高悪性度の前立腺がんで多く含まれていることが明らかになった。これらの細菌は「短鎖脂肪酸」を産生することが知られており、マウスを用いた以前の研究と同様に、ヒトでも短鎖脂肪酸を産生する腸内細菌が前立腺がんに影響を及ぼしている可能性が示唆された。また、18種類の細菌から得られた、便中に含まれる細菌前立腺指標(FMPI:Fecal microbiome prostate index)の高悪性度前立腺がんの診断能は、検査の正確性を判断する指標において、感度81%、特異度66%と、前立腺がんを早期に発見するための検査であるPSA検査(PSA:Prostate-specific antigen)よりも有用だったという。
さらに、検証用の残り38人でも調べたところ、FMPIの高悪性度の前立腺がん診断能は感度79%、特異度63%で、PSA検査よりも有用であることが再確認された。がん判別の指標となるAUC指標(AUC:Area under the Curve)は0.85ポイントで、PSA検査のAUC0.74ポイントよりも高く、有用だったとしている。
腸内フローラの改善による前立腺がんの予防や進行抑制に期待
今回の研究により、前立腺がん発症モデルマウスと同様の腸内細菌がヒトでも高悪性度の前立腺がんに関係しており、前立腺がんが発症進展する原因となる可能性が示唆された。
「今後、これらの腸内フローラの原因となる食生活などの生活習慣を調べ、生活習慣の改善や腸内フローラの改善により、前立腺がんの発症の予防や進行を抑えることが期待される」と、研究グループは述べている。
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