ペリサイトには組織保護的な作用も?貪食活性を有しているか検討
香川大学は7月8日、急激な障害から腎臓が回復する際のメカニズムをマウスで発見したと発表した。この研究は、同大医学部薬理学のキッティクゥス ワララット氏、中野大介准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「American Journal of Physiology Renal Physiology」に掲載されている。
画像はリリースより
急性腎障害では、腎臓の尿細管細胞に急激なストレスがかかり、広範な領域に細胞死が生じる。死んだ尿細管細胞は、尿細管から剥がれ落ち、尿の通り道を塞ぎ、これが広範にわたって生じると尿を生成できなくなり、死に至る。これを防ぐために、マクロファージや貪食能を得た尿細管細胞が死細胞のクリアランスを担うことが知られている。
ペリサイトは、毛細血管を支持する細胞として認識されているが、近年の研究で周囲の環境に合わせてさまざまな形質を持つことが確認されている。血液脳関門に存在するペリサイトは、脳血管障害などにおいて貪食能を獲得し、クリアランスに貢献することが知られている。しかし、末梢毛細血管におけるペリサイトも同様の性質を有しているかの研究はない。
研究グループは、腎臓の虚血・再灌流障害において、ペリサイトマーカーの1つであるNG2を発現した細胞が間質内多数確認できるようになることを観察していた。間質にただようペリサイト(だった細胞)の性質としては、筋線維芽細胞へと形質転換した後の、組織線維化増強作用が知られている。研究グループは、ペリサイトはこうした側面だけでなく、組織保護的な作用も有しているのではないかと考え、中枢におけるペリサイトのように貪食活性を有しているか検討した。
腎NG2陽性細胞の一部、急性腎障害で貪食活性を獲得、死細胞クリアランスに一定の役割
マウスに腎虚血再灌流障害を施すと、腎組織障害は3日目に最も重篤となった。一方で、NG2陽性細胞数は1日目から増加しだし、3日目にピークを迎えた。このNG2陽性細胞群において、フローサイトメトリーおよび免疫染色を用いて、貪食細胞であるマクロファージのマーカー(F4/80およびCD11b)を調査。その結果、こちらも3~5日目に有意な発現増加を認めたという。
このNG2発現細胞を単離し、ディッシュ上でビーズに対する貪食活性を調べたところ、一部の細胞が活発にビーズを貪食する像が観察された。このような細胞は筋線維芽細胞マーカーであるα-smooth muscle actin陰性だった。加えてこれらの細胞では、IL-10などの抗炎症性サイトカインの発現も増大していた。
続いて、虚血再灌流3日目のマウス腎臓からNG2陽性細胞を単離し、虚血再灌流1日目のマウスに移植。被移植マウスにおいて虚血再灌流5日目に腎機能と組織障害を観察したところ、移植を受けていないマウスと比べて、有意な機能改善・組織保護効果が確認された。病理組織観察においては、特に、尿細管管腔内の円柱形成が抑制されていたという。
これらの結果から、腎NG2陽性細胞の一部は、急性腎障害において、貪食活性を獲得し、死細胞のクリアランスに一定の役割を果たしているのではないかと結論付けたとしている。
急性腎障害からの早期回復、慢性腎臓病化に対する予防効果に期待
今回の研究では、どのようなシグナルがペリサイト形質転換の運命を決定づけるのかは明らかになっていない。このシグナル系が判明すれば、障害発生時に、ペリサイトにおいて筋線維芽細胞でなく、貪食クリアランス細胞への形質転換を誘導できるようになるという。これにより、急性腎障害からの早期の回復が見込めるだけでなく、慢性腎臓病化に対する予防効果が期待される、と研究グループは述べている。
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・香川大学 プレスリリース