COVID-19に効果的な抗ウイルス薬がなかなか見つからないのはなぜなのか?
九州大学は7月7日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の臨床試験シミュレータを新たに開発したと発表した。この研究は、同大マス・フォア・インダストリ研究所の岩見真吾客員教授(現・名古屋大学教授)、名古屋大学大学院理学研究科の岩波翔也助教、米国インディアナ大学公衆衛生大学院の江島啓介助教らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS Medicine」に掲載されている。
画像はリリースより
COVID-19に対する効果的な抗ウイルス薬剤の開発が希求され、現在、複数の治療薬が候補に挙がっている。しかし、有効な治療効果を確認した臨床試験は多くない。研究グループは今回、その理由を探るため、COVID-19患者の臨床データを収集し、数理モデルを用いて分析した。
患者間でウイルスの減衰速度に大きな差、ランダム化比較試験の必要被験者数も判明
その結果、患者間でウイルス動態、特にウイルスの減衰速度に大きな差があることを見出した。このようなウイルス動態の違いは、観察研究においては抗ウイルス薬剤の治療効果推定にバイアスを与える「交絡因子」となることが考えられる。一方、交絡因子の影響を受けない治療効果の評価手法である「ランダム化比較試験」がある。
そこで研究グループは、数理モデルを用いてランダム化比較試験を再現するシミュレータ(シミュレーションのためのソフトウエア)を開発。その結果、発症時期に関わらず患者を試験に参加させた場合、1万人を超える被験者の参加が必要なことが判明。これは、特に感染者数の限られる日本では非現実的な必要被験者数だ。その一方で、発症後間もない患者のみの試験参加とすれば、必要被験者数を500人程度に抑えることができることも、世界で初めて示した。
COVID-19を含む感染症の流行に備えたプラットフォーム整備を目指す
なお、同研究で用いた、ウイルス感染動態に基づく臨床試験のシミュレータは医師主導臨床試験(jRCT2071200023)の設計に用いられ、すでに現在、国内で実施されているという。今後も、数理科学と生命医科学の異分野融合により臨床試験設計を補助することで、その他の感染症や疾患における標準治療法の早期確立を目指すとしている。
岩波翔也助教は「新興・再興感染症に対する標準治療を早く確立するためには、効率的な臨床試験をデザインすることが必要だ。今回の研究では、COVID-19の症例を用いて、数理モデルをもとにした臨床試験のシミュレータを開発できた。この成果をもとに、COVID-19を含め、今後起こり得る感染症の流行に備えたプラットフォームの整備を目指す」と、述べている。
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