殺菌されたビフィズス菌でも抗ストレス効果を有するのか?
藤田医科大学は7月6日、加熱殺菌したビフィズス菌が脳内の炎症を抑え、抗ストレス効果をもたらすことを発見したと発表した。この研究は、同大大学院保健学研究科レギュラトリーサイエンス分野の小菅愛加大学院生、國澤和生助教、毛利彰宏准教授らのグループと、同保健学研究科の齋藤邦明教授、鍋島俊隆客員教授の共同研究グループによるもの。研究成果は、「Brain, Behavior, and Immunity」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
近年、腸内細菌が健康と密接に連関していることが明らかになっており、特に腸内細菌により制御される腸と脳が機能連関することを意味する「脳腸相関」が注目されている。ストレスを受けることで腸内細菌叢が変化し、脳内の免疫機能などに影響を与える、いわゆる「脳腸相関の乱れ」が、うつ病などの精神疾患の発症要因となる可能性も報告されている。
特に、代表的な善玉菌の一つであるビフィズス菌の減少がうつ病に関連することが知られており、これまでに生きたビフィズス菌が抗ストレス効果をもたらすことが報告されている。しかし、医薬品や幅広い製品に応用を検討する上で生きた菌だけでなく、殺菌されたビフィズス菌でも抗ストレス効果を有するのか検討することが、非常に重要な課題だった。
加熱殺菌したビフィズス菌を与えたマウスで、抑うつ関連行動異常が消失
研究グループは今回、加熱殺菌したビフィズス菌をあらかじめ与えたマウスに対しストレスを負荷することで、ビフィズス菌が抗ストレス効果を有するか検討した。同マウスではストレス負荷により生じる抑うつに関連した行動異常が認められなくなったことから、加熱殺菌したビフィズス菌でも抗ストレス効果を有することが明らかとなった。また、このマウス糞便中の腸内細菌叢を次世代シーケンサーで解析すると、ストレス負荷により生じた腸内細菌叢の乱れが大きく改善していることがわかったという。
腸内細菌叢は免疫機能と密接な関係があるため、加熱殺菌したビフィズス菌が脳内の免疫機能に与える影響も検討した結果、ビフィズス菌を与えたことにより脳内において代表的な炎症性サイトカインである「インターロイキン1β」が抑制されていることが明らかになった。ストレスにより増加するインターロイキン1βは、うつ病のリスク因子としても知られているため、ビフィズス菌が脳内のインターロイキン1βを抑制することで、うつ病の発症予防にもつながる可能性が考えられる。
加熱殺菌したビフィズス菌の抗ストレス効果、医薬品へ応用できる可能性も
現在、国内外問わずヨーグルトなどの発酵食品に生きた腸内細菌を含有した食品が広く普及している。しかし、生きた菌は保管温度など衛生管理上の考慮が必要で、活用できる製品が限定されていた。今回の研究では、加熱殺菌したビフィズス菌を与えても腸内細菌叢が変化し、脳内の炎症を抑えることで抗ストレス効果をもたらすことが明らかにされた。加熱殺菌した菌は衛生管理する上でも扱いやすいことから、非常に幅広い製品に応用できると考えられる。
「ストレス社会において、加熱殺菌したビフィズス菌の抗ストレス効果がうつ病の症状低減にもつながる可能性があり、医薬品への応用も考えられる」と、研究グループは述べている。
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