がんエクソソーム中miRNA、腫瘍血管内皮細胞における薬剤耐性獲得への関与は?
北海道大学は7月6日、がん細胞が分泌するエクソソームに含まれるmiRNAによって腫瘍血管のIL-6産生が増加し、抗がん剤耐性が誘導されることを初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院歯学研究院の樋田京子教授、間石奈湖助教、同大学院歯学研究科博士課程(研究当時)の鳥居ちさほ氏、川本泰輔氏、北海道大学病院の樋田泰浩准教授、熊本大学の南敬教授、東京医科大学の落谷孝広教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
抗がん剤治療において、薬剤耐性獲得は治療成績低下の大きな要因となり、その克服は治療上重要な課題の1つだ。耐性のメカニズムとしてがん細胞の異常によるものが広く知られているが、研究グループではこれまで、腫瘍血管内皮細胞が周囲微小環境の変化により薬剤排出ポンプP-glycoprotein(P-gp、ABCB1)の発現によりパクリタキセルなどの抗がん剤耐性を獲得しうることを報告してきた。しかし、研究グループはP-gpでは排出されない他の抗がん剤5-FUに対しても腫瘍血管が薬剤耐性をもつことを見出した。血管内皮細胞におけるABCB1以外の耐性メカニズムとして、IL-6などの炎症性サイトカインなどの存在が示唆された。
近年、がん細胞が自らの核酸やタンパク質などをエクソソームとよばれる直径100nm前後の微小胞を細胞外に分泌していること、それらを使って周囲の細胞の形質変化をもたらすことが知られるようになってきた。これらのことから、研究グループはがん細胞が分泌するエクソソーム中miRNAの腫瘍血管内皮細胞における薬剤耐性獲得への関与について調べた。
miRNA-1246<血管内皮細胞に輸送<IL6産生<5-FU耐性
研究グループは、抗がん剤5-FUに対して耐性をもつ高転移性腫瘍内の血管内皮細胞と耐性をもたない低転移性腫瘍内の血管内皮細胞を比較しIL-6の発現量を比較。さらに高転移性がん細胞と低転移性がん細胞が分泌するエクソソームを単離し、それらに含まれるmiRNAについて網羅的に比較解析した。低転移性がん細胞エクソソームよりも高転移がん細胞エクソソームに有意に多く含まれていたmiRNAについて、血管内皮細胞のIL-6上昇や薬剤耐性誘導の有無について解析した。
その結果、高転移性腫瘍内の血管内皮細胞は低転移性腫瘍内の血管内皮細胞に比べ、IL-6の発現レベルが有意に高く、抗がん剤5-FUに対して耐性を示した。高転移性がん細胞エクソソームを正常血管内皮細胞にかけるとIL-6産生量が増加した。そこで、低転移性がん細胞エクソソームに比べ高転移性がん細胞エクソソームに有意に多く含まれていたmiRNA-1246に着目。miRNA-1246は正常血管内皮細胞からのIL-6産生量を増やし、5-FUに対する耐性を誘導することが示された。がん患者の血中エクソソームは健常者エクソソームよりもmiRNA-1246レベルが有意に高いこともわかった。以上により、抗がん剤耐性のメカニズムの1つとして、がん細胞が分泌するエクソソーム内のmiRNAにより血管の耐性(IL-6産生)がもたらされることが示された。
miRNA-1246を標的とした抗がん剤耐性の克服・回避に期待
腫瘍血管はがん細胞を養い、転移の経路となっているため、血管内皮細胞の抗がん剤耐性は治療上の大きな問題となる。「がん細胞が分泌するエクソソーム中のmiRNA-1246は阻害剤の標的として、あるいは治療耐性を診断するマーカーとしての応用が期待される」と、研究グループは述べている。
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・北海道大学 プレスリリース